新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、感染防止対策や支援策などの情報を住民に届ける手段に、大阪府内の各自治体が頭を悩ませている。近年、各自治体はホームページ(HP)を活用した情報発信に力を入れてきたが、住民すべてが十分なインターネット環境に恵まれているわけではなく、HP自体も情報が日々更新される流動的な状況が続いているため、適切な情報が提供できていないのではという危惧もある。新型コロナ対策にとどまらず、情報伝達に偏りを生まないための模索が続いている。
■防災無線を活用
「こちらは東大阪市です。不要不急の外出は控えましょう」
東大阪市内では4月17日から毎日、午後1時になると防災無線の屋外スピーカーから、啓発のアナウンスが街中に流れる。市内を走るごみ収集車のスピーカーも4月中旬以降、同様に外出自粛を呼びかけてきた。市危機管理室は「複数の手段を使い、外にいる人やインターネットを使うことがない人たちに情報を伝える」と説明する。
これまで各自治体は、HPなどインターネットを使った情報発信を熱心に行ってきた。しかし、住民の中にはパソコンやスマートフォンを持たない、ネットの通信環境が十分ではない高齢者世帯や生活困窮者もいる。ネット以外で正しい情報を迅速に伝える手段の確保が急務となるゆえんだ。
富田林市は、地道に看板で知らせる手法もとる。休校により来園者が増えている市内の公園計185カ所に、子供も読めるようにふりがなをふった啓発看板を立て、密になって過ごさないように呼びかけた。HPでも公園利用時の注意を知らせているが、連日のように更新される膨大な情報量に隠れて、高齢者や子供に届いていないという懸念があった。担当者は「新型コロナ関連の情報は、部署ごとに日々新しい情報が出て、HP上で埋もれてしまう。手間はかかっても看板を掲げることで確実に伝わる」と話す。
■広報誌の配布早めて
各自治体が発行する広報誌の役割にも注目が集まる。堺市は、毎月41万世帯に配布される広報紙の5月号の配布を前倒しした。本来は4月28~30日に予定していたが、26日には全戸に配り終えたという。担当者は「毎月1回の発行で情報の即時性に限界はあるが、緊急性の高い情報をなるべく早く届けようと思った」と話す。
外出自粛が続く住民の心身の健康に役立つ企画も目立つ。熊取町は、運動不足を解消するため、「自宅でできる運動で活力を養いましょう」と呼びかけ、大阪体育大と協力して作成した体操などを紹介する。阪南市は「明るい笑顔で頑張ろう」と、市民向けの応援メッセージを掲載した。
守口市は4月、感染防止策を伝えるチラシを全世帯に配布。5月にも生活支援情報に重点を置いたチラシを配布予定だ。河内長野市も、感染予防策や相談窓口を記載したチラシを配布した。島田智明市長は「高齢者にどう発信するかが課題となっている。HPやSNS(会員制交流サイト)での発信では限界がある」と、新型コロナ対策で顕在化した情報伝達のあり方についての課題を指摘する。
■見直されるラジオの役割
「使用済みのマスクなどのゴミを捨てた後は、しっかり手を洗うことに注意ましょう。以上、泉大津市役所からのお願いでした」
泉大津市は毎週平日午前7時半から15分間、コミュニティーラジオ「FMいずみおおつ」の番組内で、市の情報を発信している。今は新型コロナに関する市の支援策や感染対策などが中心だ。朝の慌ただしい時間だが、ふと耳から入る情報に市民からは「家事をしながら聴けるのでありがたい」などと好評だ。
門真市も出資する「FM HANAKO」を活用する。枚方市でも「FMひらかた」が市のホームページをチェックして毎日、感染者数や新たなニュースを放送している。インターネットの普及などで、存在感の低下が指摘されているFM放送だが、東日本大震災の発生時に、各地域に密着した放送局が避難所の情報などをきめ細やかに放送したことで、災害時の情報源として役割が見直されていた。各自治体は今回の感染拡大でも情報伝達の有効な手段として頼りにする。
一方、地域活動のお知らせなどを台紙に挟んで地域の間で伝える回覧板は、今回、その使用をめぐって判断が分かれている。
3月、河内長野市は新型コロナ関連のお知らせを回覧板を通して発信した。しかし、手渡しによる感染リスクを考慮して、4月の緊急事態宣言の発令以降、回覧板を使っての情報伝達を取りやめた。松原市も緊急事態宣言発令以降、回覧板を通した市からの情報発信は控えている。担当者は「多くの人が手に触れるため、感染拡大リスクを考慮し、市からの回覧板を使った広報は止めている。情報周知は防災行政無線、公用車によるアナウンスを使っている」と話す。
地域によっては郵便受けに入れるなど直接の手渡しを避けながら、回覧板を活用する自治体もある。門真市も各自治会に回覧板の活用を依頼。藤井寺市も、現時点で回覧板を使った情報発信の自粛をしてない。
新型コロナの感染拡大で改めて自治体の情報伝達のあり方の難しさが顕在化した。近畿大の東郷寛准教授(地域経営論)は「インターネットに接することが難しい人たちもいる。自治体が情報を伝える際には、ネット以外でも情報が届く態勢をつくることが必要だ」と指摘する。災害発生時にも同様の課題は現れる。東郷准教授は「インターネットになじみがない人たちに無理にネットを使わせるのではなく、情報が伝達されるような地元のネットワーク、インフラ作成の支援を自治体が行うべきだ」と主張している。