米国連邦議会下院は3日、トランプ前大統領が主導する新たな減税法案を可決した。この法案は、バイデン前政権が推進した、史上最大の気候変動対策投資を掲げるインフレ抑制法(IRA)の内容を大幅に骨抜きにするものだ。複数の環境シンクタンクによる初期分析では、この法案が成立した場合、米国の二酸化炭素(CO2)排出量は今後10年間で1割近く増加する可能性があると懸念される。
減税法案を推進するトランプ前大統領。支持者の集会で演説する様子
再生可能エネルギー支援の後退と化石燃料優遇
法案の具体的内容として、IRAで定められていた電気自動車(EV)への税額控除の終了時期が大幅に前倒しされるほか、太陽光発電や風力発電に対する支援策も段階的に廃止される。一方で、原子力、地熱、水力、蓄電池といった運転時にCO2を排出しない電源の税額控除は維持される。太陽光・風力発電への増税条項は共和党議員の反発で撤回された。この法案は、4日にもトランプ氏の署名を経て正式に成立する見込みである。
専門家からの強い懸念と米国の競争力
英シンクタンク「エンバー」の政策・戦略ディレクター、リチャード・ブラック氏は、この法案が「米国における再生可能エネルギーの導入をほぼ間違いなく鈍化させる」と指摘している。クリーンエネルギー分野への世界的な需要が高まり、中国が投資や技術革新で先行する現状を踏まえ、「米政府は『競争すらしない』と自ら決めたようなものだ」と、米国の国際競争力への影響についても強い懸念を示した。
環境への具体的な影響予測
米環境シンクタンク「気候・エネルギー解決センター」は、今回の減税法案により、世界第2位のCO2排出国である米国の排出量が、2035年までに最大8%増加すると推定している。さらに、米環境保護局(EPA)では火力発電所に対する排出規制の緩和も検討されており、これが実現すれば温室効果ガスの増加はさらに加速する可能性がある。
化石燃料産業への手厚い措置と業界の反応
一方で、法案には化石燃料産業に対する明確な優遇措置が盛り込まれている。石炭の国内生産に対する税額控除が適用されるほか、連邦政府の公有地における石油やガスの採掘事業者が政府に支払うロイヤリティなどの費用が削減され、増産が促される内容となっている。化石燃料業界の代表的な団体である米石油協会(API)のマイク・ソマーズ最高経営責任者は、米CNBCテレビのインタビューに対し、「我々の優先事項はすべて法案に含まれている」と述べ、法案を高く評価した。
環境保護団体からの猛烈な批判
米国の主要な環境NGOである「自然資源防衛協議会(NRDC)」のマニシュ・バプナ会長は、3日に発表した声明の中で、この法案に対して激しく批判した。「法案に賛成票を投じた議員たちは、米国の国民の健康や家計、公有地や海洋の保護、さらには安全な気候よりも、ごく一部の最富裕層への減税を優先した。彼らは恥を知るべきだ」と強く非難した。
過去にトランプ氏を批判したイーロン・マスク氏。米国大型減税法案の内容について
結論
今回の米国減税法案は、気候変動対策における米国の取り組みを大きく後退させる可能性が高く、国内外で大きな波紋を呼んでいる。特に再生可能エネルギーへの支援縮小と化石燃料への優遇は、今後の世界のエネルギー政策や気候変動対策にも影響を与える可能性がある。今後の米環境政策の動向が注視される。