右派・宗教勢力と中道・左派勢力がともに、連立交渉の失敗を繰り返し、1年間で3度の総選挙実施を余儀なくされたイスラエルで、ようやく新政権が発足した。
新型コロナウイルスの流行に対処するため、両勢力が手を組んだ大連立であり、首相は右派のネタニヤフ氏が1年半続投し、同氏打倒を掲げてきた中道のガンツ元軍参謀総長が交代して、1年半務める。
長期に及んだ政局の混乱はとりあえず収束に向かいそうだが、ネタニヤフ氏が選挙公約でもある占領地ヨルダン川西岸の入植地併合に動き出す構えを見せており、注視せねばならない。
ネタニヤフ氏は新政権発足に先立つ国会での演説で、入植地について「イスラエルの法律を適用するときだ」と述べた。
占領地の自国領土への編入は国際法違反であり、国連安全保障理事会の決議は、イスラエルに対し入植停止を求めている。
パレスチナ自治政府は西岸地区を将来の独立国家の「領土」と位置付けており、併合が具体化すれば、暴力をも伴う激しい混乱を引き起こしかねない。ネタニヤフ氏は国際社会の強い反対の声に耳を傾けるべきだ。
イスラエルの強硬姿勢の背後にあるのは、トランプ米政権による肩入れである。トランプ政権は1月に発表した新中東和平案で、入植地へのイスラエルの主権を容認した。
新政権発足に際しても、ポンペオ国務長官が直前、ウイルス禍のさなか異例の訪問を実行した。
ポンペオ氏はその際、中国が港湾の整備や海水淡水化プラント建設を通じてイスラエルに経済的接近を図っていることに懸念を表明した。
中国、イランをにらみ、イスラエルとの同盟を重視する米国の立場は理解できる。だが、パレスチナ問題は別だ。米国が長年、和平の仲介者であった事実も重い。
いまのトランプ政権による極端なまでのイスラエル寄りの姿勢は、大統領選での親イスラエル票目当てだとの批判を免れまい。
中東情勢が極めて不安定ないま、もっとも重要なのは、紛争の種をまかないことだ。トランプ政権は影響力を行使して、新政権の軽挙をたしなめるべきだ。日本は両者に対し、慎重な対応を求めていかねばならない。