36人が死亡、33人が負傷した京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件で、京都府警は青葉真司容疑者を殺人などの疑いで逮捕、送検した。
アニメ界の多くの才能がむごすぎる形で失われた。事実の解明を確実かつ慎重に進めてほしい。起訴を経ての公判では事件がいかに非道で残酷なものであったかを、しっかりと理解させてもらいたい。
被害者は人数ではない。一人一人に名前や顔があり、素晴らしい技や夢を持っていた。それらを瞬時に奪い去った理不尽は、どんな動機があろうとも許されない。
京アニは、逮捕を受けて「被疑者が自らの行いにどのような弁解をしようが、結果についていかなる反省の弁を述べようが、命を奪われた仲間たちが戻ってくることも、傷つけられた仲間たちの傷が癒やされることもありません」などとコメントした。
当然の思いである。それでも、動機の解明や、容疑者の反省は必要だ。それが法治国家の務めでもある。
逮捕までは異例の経緯をたどった。発生直後に府警は逮捕状を取ったが、容疑者も重度のやけどを負い入院が続いた。大がかりな皮膚移植手術が複数回行われた。
容疑者は現在も自分で歩けない状態だが、勾留に耐えられると医師が判断した。身柄は医療態勢の整った大阪拘置所に移され、体調を考慮しながら取り調べが進められる。医療面での配慮は全て、容疑者に自分がなした犯行の意味を理解、反省させ、法的な責任を取らせるためだ。
事件後、容疑者は「小説を盗まれた」と話した。京アニは小説などの公募に同姓同名の人物から応募があったことを認めたが、作品の類似性は否定した。思い込みの犯行の可能性が高く、あまりにも身勝手と言うほかはない。
容疑者は逮捕後、「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」と計画性についても供述していた。昨秋の聴取には「道に外れた」と後悔する一方で「どうせ死刑になる」と投げやりな態度も見せたという。
全ては一方的で、勝手極まりない言い分である。取り調べや公判を通じて、自らの重大すぎる犯行と向き合わせることが必要だ。判事、検察、弁護士の法曹三者には公判で、事件の全容に全身全霊で切り込んでほしい。