【ロンドン=板東和正】英国で15日、新型コロナウイルス流行が小康状態になったのを受け、百貨店やブティックなどの小売店の営業が再開した。外出が増えることを想定し、英政府は同日から鉄道やバス、航空機など公共交通機関の利用者に鼻や口をマスクや布で覆うことを義務づけた。ただ、ロンドン市内の地下鉄では着用していない人も目立ち、感染拡大の「第2波」が懸念されている。
ロンドン中心部にある高級デパート「セルフリッジズ」では、開店1時間前の午前10時から100人以上の市民が行列を作った。感染を広げないために店員が入り口に立ち、店内にいる客の人数を確認しながら、外で待つ客を1人ずつ入れる厳重な対応をとった。
店舗の前では、待機する客が感染予防のために両手を消毒できるブースを設置。「社会的距離」を保てるように歩道に等間隔に空けられた目印シールが貼られた。客の男性(41)は「店に入るまで1時間以上かかるが、経済が再開する様子を肌で感じられてうれしい」と話した。
英政府は新型コロナの感染拡大を防ぐために、3月23日から外出制限を実施。百貨店など生活必需品を扱っていない小売店が閉鎖された。米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、今月15日時点の英国の感染者数は約29万7千人と世界で5番目。4月中の大半は1日の新規感染者数が4千人以上だったが、5月下旬以降は2千人未満になる日が増え、英政府は感染が一定程度落ち着いたとし、百貨店などの再開を許可した。
一方で、英紙タイムズは「ジョンソン首相は、感染拡大の『第2波』とのジレンマに直面している」と指摘する。英国では最近、米国での白人警官による黒人男性暴行死事件を受けた大規模な抗議デモが実施されており、密集による感染者増加が懸念されている。セルフリッジズ付近で15日に再開した米スポーツメーカーの店舗では、開店を待つ約400人の客が社会的距離を保たずに密集。入り口に客が押し寄せないように警備員が絶えず警戒していた。
マスクなどの着用義務化も功を奏すかどうかは不透明だ。公共交通機関で鼻や口を覆わなければ100ポンド(約1万3千円)の罰金を科せられることもあるが、ロンドン市内の地下鉄ではマスクを着用していない乗客の姿が見受けられる。英国ではマスクの着用が浸透しておらず、英調査会社ユーガブによると着用率は5日時点で21%だった。