関西電力役員らの金品受領などの問題で、関電は旧経営陣5人に対し19億3600万円の損害賠償を求めて提訴した。
訴訟をもって幕引きとは、到底できない。関電は事実をより明白にし、電気利用者の目線に徹すべきだが、わかっているのだろうか。
提訴の発表で記者会見は開かれず、森本孝社長ら現経営陣は姿を見せなかった。誠実に説明しようとする姿勢は見えなかった。問題は、原発のある福井県高浜町の元助役(故人)から関電役員らが金品を受け取り、元助役の関連会社に工事が発注されていたことである。
第三者委員会は3月、関電の便宜供与を認め、元助役と役員らは「共犯者」だったとした。利用者の電気代が還流されていたということにほかならない。
引責辞任した岩根茂樹前社長らが提訴の対象となった。旧経営陣5人の責任は当然、問われるべきである。しかし金品を受け取っていた者は第三者委の調査で75人に及ぶ。5人の提訴を関電の免罪符にしてはいけない。
副社長として金品受領の概要を知りながら対策を取れなかった森本社長や、問題を見過ごした監査役は提訴されていない。責任を5人に限定させようとしていると見られても仕方あるまい。
関電は、一部株主から損害賠償請求訴訟を起こすよう求められていた。株主代表訴訟の可能性もあった。提訴は、監査役が設置した取締役責任調査委員会が、5人には注意を払って業務を行うべき善管注意義務違反があるとしたのを受けてのことだった。仕方なくなされた提訴と言える。
利用者を裏切る不祥事を起こしておきながら、組織として積極的に自浄作用を働かせようとする意欲が感じられない。利用者目線で見て何とも嘆かわしい。
関電は金品の受領に組織として対応せず公表もしなかった。コーポレートガバナンス(企業統治)そのものに問題がある。ガバナンスの欠如が会社に大きな損害を与えることを、関電は改めて強く認識すべきだ。
関電はコンプライアンス(法令順守)委員会の設置などを含む業務改善計画をまとめている。しかし組織の形が変わっても、企業人の意識が変わらなければどうしようもない。膿(うみ)を出し切る意志が関電になければ再生には程遠い。