政府は6月の月例経済報告で判断を上方修正し、新型コロナウイルスによる未曽有の景気崩落が下げ止まりつつあるとの認識を示した。個人消費の持ち直しに加え輸出も4~6月期で底打ちが期待され、経済に明るい兆しが出てきた。ただ感染拡大による落ち込みからの回復力は弱く、物価が持続的に下落するデフレの圧力も強まる。「低温経済」のもと、コロナ前の水準に戻るには年単位の時間がかかりそうだ。(田辺 裕晶)
「6月は前半の半月だけで例年の1カ月分の受注があった。みなさん作りたいのに我慢していたようだ」
東京都中央区でオーダーシャツを製造・販売するLAS(ラス)日本橋店の竹田雅(まさ)朗(あき)エリアマネージャーは、驚きを隠さない。新型コロナの感染拡大で4月中旬から店舗を臨時休業していたが、緊急事態宣言が全国で解除された5月25日から営業を再開。待ちわびていた顧客が相次いで訪れている。
クレジットカード大手ジェーシービー(JCB)とナウキャストが取引データから消費動向を算出する指数「JCB消費NOW」によると、5月後半の小売業全体の販売はコロナ禍前の1月後半と比べ0・5%増え、3カ月ぶりにプラス転換した。一部の業種では外出自粛の反動による“リベンジ消費”が起きている。
内需に比べ回復が遅れた外需も先行きは期待感がある。落ち込みが激しかった自動車の輸出だが、経済の再開が進む中国や米国などでは国内販売台数が持ち直してきた。SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「自動車輸出の落ち込みは一時的なものだ。世界の製造業の景況感は5月に反転しており、最悪期は脱出した」と分析する。
一方、どん底から抜け出せたとしても、順調な回復軌道に戻ると判断するのは時期尚早だ。社会的距離を確保するため飲食店が座席数を減らすなど企業は生産性の低下が避けられないうえ、感染が再拡大すれば景気は冷や水を浴びる。昨年10月の消費税増税からコロナ禍へと続いた景気の落ち込みは深く、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは実質国内総生産(GDP)が昨年7~9月期の水準に戻るのは早くても令和6年以降とみる。
総務省が発表した5月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比0・2%下落と2カ月連続で前年実績を下回り、物価下落は長期化しそうだ。蒸発した需要の回復が一過性にとどまれば、モノの値段が下がり経済が縮小する悪循環につながりかねない。