中国軍とインド軍の衝突が、インド北部カシミール地方ラダックで深刻化している。インド側では兵士20人が死亡する事態になった。両国の実効支配線で中国に隣接するラダックではこれまで、たびたび両軍の小競り合いが発生してきた。ラダックとは、どんなところなのか。(元ニューデリー支局長 岩田智雄)
凍り付く標高5300メートル
2014年11月、中印軍の衝突が散発的に発生していたラダックを取材した。中心都市はレー。そこから車で4時間ほどで、実効支配線に分断されたパンゴン湖に着く。秋ともなると辺りの山々はいっそう雪深くなり、凍り付くような寒さに包まれる。湖に至る道路は最高で標高5300メートルを超え、富士山の標高3776メートルをはるかに上回る。
青く澄み、風光明媚(めいび)で有名なパンゴン湖は、約10年前に人気を博したインド映画のクライマックスシーンのロケ地となった。観光客がよく訪れるようになったものの、その姿を見るために、薄い空気に備えた酸素ボンベを携帯する人も多い。
厳しい自然の中で衝突
今回の中印軍衝突は5月初めから始まったとされ、パンゴン湖や北方のガルワン渓谷付近で起きた。
6年前の取材当時、湖上を数人の兵士を乗せたインド軍の警備艇が移動していくのを目撃した。東西約130キロに広がるこの湖は、両国の実効支配線によって、ラダックと中国が支配するアクサイチン地方に分かれている。インド軍は湖面が凍結する前の毎年11月末まで週2回、警備艇で哨戒活動を行っているとのことだった。