「新しい生活様式」におけるオーケストラの在り方が模索されるなか、東京都交響楽団(都響)は、専門家や医療関係者の助言を取り入れた試演を報道関係者に公開した。オケ編成で演奏した際の飛沫(ひまつ)・エアロゾルの測定などが行われ、公演再開に向け安全性と音楽性を両立させるための検討が続いている。
試演は、音楽監督を務める大野和士(かずし)さんの指揮のもと東京・上野の東京文化会館で11日と12日に行われた。初日は飛沫感染リスクの低い弦楽合奏のみ実施。4月に欧州のオケが提案した、奏者同士の間隔を2メートルあける基準に従って1人ずつ譜面台を使うスタイルで演奏を開始。響きのバランスを確認しながら、少しずつ前後左右の距離を詰めていった。
距離を1メートルまで近づけると、通常通り2人一組ごとに譜面台を共有できるようになり、見た目の違和感はなくなる。楽器の構え方、低音を下支えするコントラバスの位置を中央に寄せるなどの工夫を加えると、散漫だった音にもまとまりが感じられるようになった。
2日目は、慶応義塾大理工学部の奥田知明教授(環境化学・エアロゾル工学)、聖マリアンナ医大の国島広之教授(感染症学)のほか、呼吸器科専門医らが試演に立ち会った。
木管、金管楽器の種類ごとに行われたレーザー光を用いて飛沫の広がりを見る測定では、いずれの楽器からも飛沫はほぼ飛んでいないことが確認できたという。この結果に基づき、舞台上では管楽器も奏者間の距離を約1メートルに設定した。
国内屈指の実力を誇る都響は、マーラーやブルックナーなど、多くの楽器と奏者を必要とする大編成の作品を得意としてきた。大野さんは「安全性と芸術性を両立させたい。シェーンベルク、ヒンデミットなど、小さな編成でも良い作品はたくさんある。それらを取り上げる機会にもなる」と前向きにとらえる。
詳しい分析結果は後日発表する予定で、都響は他のオケや吹奏楽、合唱団などにも提供して音楽界全体の活動再開に役立てたいとしている。(石井那納子)