【台北=矢板明夫】中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が「香港国家安全維持法」を可決、成立させたことについて、台湾の蔡英文総統は30日、「非常に失望している。一国二制度が実現不可能であることを証明するものだ」と述べた。中国の習近平国家主席は昨年1月、台湾に対して香港と同じ「一国二制度」方式による中国との統一を呼び掛けたが、今回の法制定により台湾で中国への不信感がさらに高まりそうだ。
親中派とされる台湾の野党、中国国民党も30日、「香港国家安全維持法によって香港社会に対立と衝突をもたらす可能性がある。香港司法の高度な自治が守られるべきだ」との声明を発表し、中国の強引なやり方を暗に批判した。
台湾行政院(内閣に相当)は同日、香港訪問に伴う「起こり得るリスク」を警戒するよう市民に呼び掛けた。具体的なリスクについては言及しなかったが、これまで中国を訪問した台湾の人権団体の関係者が「スパイ容疑」などで逮捕、起訴されたことがあり、同法が施行されれば、香港滞在中の台湾人が政治的な言動によって、摘発対象となる可能性があると注意を促したとみられる。
一方、台湾では中国当局に抗議する香港市民を支援する輪が広がっている。台湾で対中政策を主管する大陸委員会は7月1日から「香港サービス交流事務所」を設け、台湾への移民、留学、投資を希望する香港市民や企業への支援を本格的に始める。香港市民から相談を受けるホットラインも設け、台湾に移転したい香港企業、国際組織を積極的にサポートする。
台湾当局関係者の間では、中国の習近平政権が香港の次に、台湾に対して強引に統一攻勢を仕掛けるのではないかと懸念する声も高まっている。全人代で、台湾との統一を念頭に「国家統一法」を制定する動きが数年前から始まっていることもあり、台湾の与党、民主進歩党の関係者は「『国家統一法』を阻止するためにも、今はしっかりと香港の民主派を支援しなければならない。香港を支持することは台湾を守ることだ」と話している。