昨年7月の参院選広島選挙区をめぐる買収事件は、公選法違反罪で前法相で衆院議員、河井克行被告(57)と、妻で参院議員、案里被告(46)が起訴されたことで区切りを迎えた。検察当局は総額約2900万円を受け取った被買収者100人全員の処分を保留したが、関係者によると、大半は不起訴(起訴猶予)処分になる見通しという。過去の類似事件では、被買収者側も罪を問われたケースはあるが、検察当局は克行被告が無理やり現金を渡そうとしたことなどを考慮し、事件をまとめたもようだ。
昨年4月上旬、広島県議の後援会事務所を訪れた克行被告は突如、封筒を県議に差し出し事務所を去った。封筒の中身は現金30万円。「お返しします」。県議はしばらくして克行被告の事務所を訪れ返金した。
参院選の投開票日を目前に控えた昨年7月中旬には、同県呉市議が、案里被告の選挙事務所で克行被告から現金30万円の入った封筒を「押し付けられた」という。押し問答の末に受け取ったが、「投票を控えたどうしようもない時期で、『まずいこと』だとは分かっていた」と振り返る。
東京地検特捜部など検察当局は、当選7回と地元政界で影響力を持つ克行被告の強引な行為を断るのが困難だと判断したことや、すでに返金したことを念頭に、2人とも起訴猶予処分にするとみられる。
対照的に、過去の類似事件では被買収者も立件されたケースはある。昨年4月投開票の青森県議選をめぐり、当時の地元町議らに票の取りまとめを依頼し現金を渡すなどしたとして県議が起訴された事件では、青森区検が計5万円を受け取った当時の町議8人を略式起訴。青森簡裁が追徴金5万円と罰金30万~40万円の略式命令を出した。
ある検察幹部は「『津軽選挙』とも呼ばれる買収が根付く地域では、被買収者も積極的に関与したケースが多いが、今回は克行被告らの強引な配布が目につく」と指摘する。
ただ、夫妻の買収事件では被買収者の受領額が高額という問題もある。元広島県議会議長の奥原信也県議(77)が200万円、同県三原市の天満(てんま)祥典前市長(73)は150万円を受け取ったほか、地元議員の多くも数十万円を受領した。また、「給与」の振り込みがあった陣営スタッフも100万円近くを買収額として認定された。
「これだけの金額を受け取って何の罪にも問われないとしたら、おかしいのではないか。過去の事件と整合性がとれず、今後の選挙違反事件に大きな影響を及ぼす」と検察OBは指摘する。一方で、公選法に詳しい弁護士は「金額だけで処分を変えるのは不公平だ。検察は全員を不起訴処分にするのではないか」と指摘する。
不起訴が見込まれる被買収者側の意見も分かれる。ある県議は「受領をしたことは周囲に知られているが、引き続き政治家として地域に貢献して挽回したい」と前向きなのに対し、広島市議の一人は「今後、立件されることもありうると考えている。裁判に証人として出廷することにもなるだろう。(進退については)今は何も考えられない」と声を落とす。
別の検察幹部は「事件の本質がどこにあるか見極めて、処分を決めていくことになるだろう」とした。