自民党の巨大な収入源である「党費」。100万人を超える党員から、年間約40億円もの資金が集まるとされています。しかし今、この党費を納めるべき「党員の実在性」に重大な疑念が浮上しています。本誌は、実体のない「幽霊党員」が多数登録された自民党の党員名簿を入手。その不可解な実態に迫ります。この問題は、国民が政治に参加し、党の意思決定に声を反映させるはずの党員制度が、議員が公認を得るための単なる「数合わせ」と化している現状を浮き彫りにしています。
「一体、誰がこんなものを出回らせるんですか!党員として協力してきたのに、こんなリストを見せられても困る」——神奈川県横浜市に住む杉山和夫さん(仮名)は、FRIDAYデジタル取材班が提示した名簿を見て、明らかに動揺した様子で語りました。その名簿は、山本朋広・元防衛副大臣(神奈川県第4選挙区、’24年衆院選落選)が集めたとされる自民党の党員名簿です。
自民党の『幽霊党員』問題で、51人もの党員が登録されていたとされる神奈川県内のアパート外観。
この名簿には、自民党の支持者とされる人々の名前が並んでいますが、一つの不可解な点があります。杉山さんが住むマンションの1室に、約30人もの党員が登録されていたのです。当然ながら、杉山さんの自宅に30人もの人が生活しているわけではありません。これは、実体の伴わない「幽霊党員」の名前が名簿に記載されていることを示しています。
この奇妙な「幽霊党員名簿」の存在から取材を進めると、驚くべき実態が見えてきました。自民党の党員制度では、一般党員は年額4000円、家族党員は同2000円の党費を納め、2年以上継続すると総裁選での投票権を得る仕組みです。しかし、この制度が悪用され、党員名簿に「幽霊」が紛れ込んでいるのです。山本氏が’18年に集めた名簿には、同氏の秘書や複数の支援者の自宅住所に、それぞれ30人から50人規模の党員が集中して登録されていました。名簿には「戸山」や「嶋田」(それぞれ仮名)といった同じ名字で、「六郎」「新六郎」「六郎太」「新六郎太」「クメ」「トメ」……といった似通った名前がずらりと並んでいる箇所もありました。
冒頭の杉山さんのケースだけでなく、他の支援者の自宅でも同様の状況が見られました。1DK程度のアパートに住む秘書の一人の住所には、なんと51人もの「幽霊党員」が登録されていたのです。物理的に考えて、この狭い空間に51人が居住していることはあり得ません。さらに、40人が登録されていた別の支援者の自宅を訪ねると、家人は「山本事務所の秘書に頼まれまして……」と、架空登録の事実を認めました。党費の支払いについても、「払っていませんよね?」という問いに対し、「はい」と非払いを認めました。
では、なぜこのような架空の党員登録が行われるのでしょうか?長年、政治資金問題を追及してきた神戸学院大学の上脇博之教授は、この「幽霊党員」の背景には、自民党が抱える構造的な問題があると指摘します。教授によれば、自民党の党員数は、ピークだった1991年には547万人に達していましたが、小泉構造改革以降、激減しました。非正規雇用の増加や公共事業の削減などによる格差拡大が、支持基盤である党員の離反を招いたのです。2009年に民主党に政権を奪われ、2012年末の第2次安倍政権発足時には党員数が73万人台まで落ち込みました。
この党員数減少を受け、自民党は議員に対し、党員獲得のノルマを課すようになりました。国会議員には党員1000人、県議には200人、市議には50人の獲得が求められます。このノルマを達成しないと、基本的に自民党からの公認が得られないという厳しいペナルティが科されます。しかし、格差社会が広がる中で、新たにお金を払ってまで党員になろうという人はそう多くありません。結果として、ペナルティ回避のために議員が「幽霊党員」を作り出す、という状況が生まれてしまったのです。
ある自民党関係者も、「山本氏が大量の『幽霊党員』を作った背景にも、このノルマが大きく関係している」と内情を明かします。京都から’12年に神奈川4区へいわゆる「落下傘候補」として来た山本氏は、地元での支持基盤が極めて弱かったとされています。小選挙区での勝利が難しいと自認し、菅義偉元首相との強い関係を背景に、比例復活を前提とした選挙戦を展開していました。そのため、党員集めのモチベーションも低く、自力で1000人を集めるのは不可能だと見られていました。
しかも、これは山本氏に限った話ではありません。昨年10月に行われた衆議院選挙の富山1区で当選した自民党の田畑裕明議員も、架空あるいは本人に無断で262人を党員登録していたことが発覚しています。田畑氏は当初、「親族が企業の従業員などを党員にし、党費も支払っていた」と釈明しましたが、実在の党員であるという明確な証拠は提出されておらず、本当に党員が存在したのかは不明なままです。
前出の自民党関係者は、「選挙区で常に勝てるような地力のある議員でないと、1000人以上を集めるのは難しい」と指摘します。実際、青山繁晴氏(約1万2000人)や高市早苗氏(約8000人)のような一部の議員を除けば、多くても2000人台を集めるのが精いっぱい、というのが現実だと言います。にもかかわらず、地方経済が疲弊し、党員が集まりにくい状況が続く中、党本部は厳しいノルマを課し続けています。
上脇教授は、「党員が集まるような経済状況を作ってこなかったにも関わらず、ノルマだけを課す。結局、自民党の政策の失敗が、議員たちの首を絞め、幽霊党員を作らざるを得ない状況に追い込んでいるのです」と、自民党の構造的な問題を強調します。党員制度の本来の目的は、国民が政治に参加し、その意思を党の運営に反映させるための民主的な仕組みであるはずです。しかし現状では、党員数のノルマ達成のために不透明な手段が横行し、その結果として「カネを払えば公認がもらえる」という歪んだ制度になりつつあります。
自民党関係者は嘆息混じりに語ります。「党員を集められるというのは、それだけ地域で支持された議員であることの証左になるはずでした。しかし、今の党員制度は実質的な支持とは無関係な単なる数合わせになっている。出どころの分からないカネで党員を水増ししているような議員に公認を与えるのは、本末転倒です」。幽霊党員問題は、自民党の党員制度が抱える深い闇と、それが日本の政治に投げかける影を示唆しています。
FRIDAYデジタル
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