九州や岐阜、長野県に記録的豪雨と甚大な被害を及ぼした梅雨前線が、列島付近に停滞し続けている。
気象庁によると11、12日も九州から北日本にかけて、広い範囲で大雨となる可能性がある。梅雨前線は週明けの13日以降も本州付近に居座るとみられ、大雨による土砂災害や河川氾濫に、厳重な警戒を続けなければならない。
多くの犠牲者が出た熊本県などの被災地では、行方不明者の捜索や復旧作業が行われているが、人命にかかわる二次災害を起こしてはならない。天候を見極め、安全確保を徹底してもらいたい。
被災地への支援では、断水や孤立状態の長期化、さらに新たな災害が起こる可能性も見据え、食料と物資を供給する必要がある。
今月初めから降り続く雨で、各地で地盤が緩み、河川流域の総雨量は蓄積されている。九州や岐阜、長野に限らず、土砂災害や河川氾濫は「どこで起きてもおかしくない」状況にある。
土砂や濁流に対して「強者」はいない。すべての人が「弱者」の立場に立って、命を守ることに徹することが大事だ。
熊本県球磨村では4日未明、球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」が浸水し、入所者14人が犠牲になった。
熊本、鹿児島県の自治体に「警戒レベル5」の大雨特別警報が出された4日午前4時50分の段階では、避難は間に合わない。
球磨村は、高齢者や身体の不自由な人などに避難開始を呼びかける「レベル3」の避難準備情報を3日午後5時に出している。この段階で懸念されたのは河川の氾濫よりも土砂災害だったが、最悪の事態を想定すれば命を守る手立てはあったのではないか。
特別警報は、大規模災害がすでに発生した状況で「命を守る行動」を呼びかけるもので、避難や安全確保の目安ではない。
高齢者や障害者、妊婦などの災害弱者の命を守り切るために、レベル3で動き始めることを、すべての人の共通認識としたい。
高齢者らの安全を確保したうえで、それ以外の人も避難を始めたり、直ちに避難できる態勢を整えたりする。自治体の避難指示や勧告(レベル4)を先取りする意識を持ちたい。コロナ感染を恐れて避難行動をためらわないことも、再確認しておきたい。