【カイロ=佐藤貴生】中国とイランが25年に及ぶ経済・安全保障のパートナーシップ協定を結ぶ計画を進めている。ニューヨーク・タイムズ(電子版)など米メディアが報じた。中国はイランを巨大経済圏構想「一帯一路」における重要国と位置付ける半面、イランにすれば中国との関係強化は技術の導入や経済の好転につながる。対米関係が悪化している両国の連携強化の動きに、米政府は神経をとがらせている。
同紙は11日、中国とイランの協定案を入手したとして内容を伝えた。中国はイラン国内で空港や高速鉄道、地下鉄の建設に投資し、第5世代(5G)移動通信システムのインフラも構築する。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化する。両国軍が昨年末にオマーン湾やインド洋で行った海上演習にはロシア軍も加わり、反米協調を演出した。
イラン高官らは同紙に、協定により中国が25年間にわたりイラン産石油を安価で購入でき、イランには同じ期間に中国から総額4000億ドル(約43兆円)相当の投資が流入すると述べた。
トランプ米政権はイラン核合意からの離脱に伴って原油の全面禁輸を含む対イラン経済制裁を再開しており、中国が原油輸入に踏み切れば対立が深まるのは確実だ。米国務省報道官は「イランを支援した中国企業には代償を科す」と述べ、協定締結の動きを牽制(けんせい)した。
また、協定を通じて中国がイランの戦略的要衝、ホルムズ海峡に近いジャスク港などの港湾整備に投資する可能性も指摘される。新型コロナウイルスの感染拡大前、世界で海上輸送される原油の3割が通過していた同海峡は米・イランの緊張の最前線だ。中国が足場を築けば争いが複雑化する恐れがある。
協定は2016年、イランを訪れた中国の習近平国家主席が提案したが、中国側は締結するか態度を鮮明にしていない。
イラン国内では、米制裁に対抗するには中国との協定が最適だという意見が出る半面、コロナ感染拡大で経済低迷が深刻化するなかで協定を結べば、中国に足元を見られて不利な条件を飲まされかねないとの懸念も聞かれる。イランでは内閣が協定案を了承したが、まだ国会には提出されていないもようだ。
中国は南シナ海や貿易摩擦などの問題で、イランは核・ミサイル開発をめぐり、米国との対立が激化している。米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は12日、協定は中国とイランにはこうした選択肢もあるのだという「意思表示」で、実現性を疑問視する専門家の見解も伝えた。