韓国は2010年、冷蔵庫やエアコンの冷媒として使用してきたフロンガスの使用および輸入を全面中断した。フロンガスがオゾン層を破壊し、地球温暖化が深刻になるという理由で、国際社会が1987年のモントリオール議定書でフロンガスの生産を禁止したのがきっかけだ。グローバル環境標準・規制が経済・産業に大きな影響を及ぼすという事実をよく表す事例に挙げられる。
地球温暖化を防ぐための国際社会の動きが強まっている。2018年にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の勧告を受け、約120カ国が2050年までに達成すると宣言した炭素中立(カーボンニュートラル)が代表的な例だ。炭素中立とは排出する炭素量と吸収する炭素量を同じにする(ネットゼロ)という意味だ。中国と日本に続いて文在寅(ムン・ジェイン)大統領も先月28日の国会施政演説で「2050年炭素中立を目標に進む」と宣言した。
バイデン氏がトランプ米大統領の化石燃料使用拡大政策を覆して「2050年ネットゼロ」を実現させると公言し、炭素中立はもう世界的な流れになったと、専門家らは評価している。炭素中立を実現するためには、現在排出する量ほど炭素を減らしたり吸収したりしなければいけない。フロンガスのように一部の家電企業に限られない。世界すべての企業と国の競争力が炭素削減能力によって決まる時代が本格化する。炭素中立は「ESG(環境・社会・支配構造)経営」の核心テーマにも浮上すると予想される。
産業界では、製造業への依存度が高い韓国は他国より炭素中立に多くの費用と努力を注ぐ必要があるとみている。韓国は経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち温室効果ガスを5番目に多く排出している。産業研究院によると、国内の鉄鋼・セメント・石油化学の3つの業種だけで炭素中立費用として2050年までに少なくとも400兆ウォン(約38兆円)が必要と推定される。国内産業界全体では800兆-1000兆ウォンにのぼる。
産業研究院のチョン・ウンミ成長動力産業研究本部長は「企業は長期的な視点で炭素削減技術を開発し、気候変動時代に対応しなければいけない」とし「政府も企業の炭素削減を支援し、関連予算を拡大する必要がある」と述べた。
「国際社会と共に気候変動に積極的に対応し、2050年の炭素中立を目標に進む」。先月28日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2050年までに炭素中立を実現させると宣言した。国連総会のような国際行事でもなく来年の予算関連の国会施政演説を通じてだ。それだけ状況が良くないと判断したという見方が多い。米国と中国が相次いで炭素中立を公言し、日本までがそこに合流し、時間に追われるしかなかったというのが、青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の説明だ。今年から政府がグリーンニューディールを重要事業として推進してきた中、炭素中立に消極的に対応するのは矛盾するという見方も負担になったという分析だ。
しかし韓国政府が自主的に定めた温室効果ガス削減目標も守れずにいるだけに、産業界の打撃を最小化しながら「ネットゼロ」を達成するための具体的な支援案が急がれる状況だ。
温室効果ガス削減が容易でないことは、米国と欧州連合(EU)の事例を見れば分かる。米国は2005年と2007年の間に二酸化炭素排出量がピークだったが、10年間に14%ほど炭素を減らした。EUは1990年代に二酸化炭素排出量がピークだったが、約20年間に21%ほど縮小した後、2030年までに45%減らすことにした。炭素を半分に減らす期間を約40年間と定めたのだ。
欧州よりも製造業の比率が高い韓国が炭素中立を実現するためにはより多くの時間が必要だと、専門家らはみている。韓国はまだ二酸化炭素排出量のピークを過ぎていないからだ。また韓国は1990年から2017年まで温室効果ガス排出量増加率が経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち最も高い。
さらに韓国は今年の温室効果ガス削減目標も達成できない。2014年に政府は今年の温室効果ガス排出量を5億4300万トンに減らすと公言した。しかし昨年の排出量暫定値は7億トンを超え、今年も似た水準と予想される。趙明来(チョ・ミョンレ)環境部長官は先月の国政監査で「今年の温室効果ガス削減目標を達成するのは容易でない」と認めた。
短期間内に温室効果ガスを削減するには、炭素排出過多業種の鉄鋼と石油化学自動車工場の稼働を減らす必要がある。そうでなければ炭素排出量を画期的に減らす新技術が必要だ。現状態なら主力事業が受ける打撃が避けられないというのが大半の意見だ。産業研究院のチョン・ウンミ成長動力産業研究本部長は「2017年比で2050年の炭素排出量を40%減らすには、鉄鋼・石油化学・セメントの3つの業種だけで少なくとも400兆ウォン以上の転換費用が必要」とし「政府の目標のように2050年に炭素中立を実現するための費用は正確に予測するのが難しい」と述べた。
とはいえ、韓国が国際社会の環境規制を無視することはできない。世界的な流れに機敏に対応しなければならないのが輸出中心国の宿命であるからだ。現在の水準で炭素を排出すれば、2100年までに気象異変などで韓国が受ける被害額は3128兆ウォンにのぼるという研究結果(韓国環境政策・評価研究院)もある。
政府もその間、気候変動に対応するため努力してきた。環境部は年初に発表した「2050長期低炭素発展戦略(LEDS)検討案」を通じて、2017年比で2050年の炭素排出量を一定比率(40-75%)削減する5つの案を提示した。LEDSの期限を年末に定めたパリ協定に基づき、最終案を選定して年内に国連に提出しなければならない。しかし文大統領が先月、炭素中立を宣言をし、炭素低減目標値を従来よりさらに高めなければいけない状況に直面した。
従来の検討案には、2017年比で2050年の炭素排出を75%削減した場合を仮定して専門家らが作成した未来社会のシナリオがあった。「2050年に内燃機関の車を利用する人は全体の7%程度で、内燃機関の車は自動車市場で一時代の記憶として残ることとなる」という内容だ。このシナリオに基づくと、2050年には国内のエコカーは2000台以上で自動車全体の93%を占める。現在のエコカー比率は3%水準だ。内燃機関の車とエコカーの比率が逆転するということだ。その場合、「産業の大転換」はもちろん、軽油税など各種課税体系も調整する必要がある。
◆炭素中立
炭素排出量から吸収量を引いた純排出がゼロになる状態を意味する。ネットゼロ(Net Zero)ともいう。ここで炭素とは石油など化石燃料を使用して発生する二酸化炭素など温室効果ガスをいう。