【パリ=三井美奈】中国・武漢で広がった新型コロナウイルスの情報をインターネットで公開し、「騒動挑発罪」容疑で逮捕された中国人の活動家、陳●(ちん・ばい)さん(27)の兄の陳◆(こん)さん(33)が移住先のパリで産経新聞とのインタビューに応じた。陳◆さんは弟の身を案じながら、「政府は『中国がウイルス発生源』という事実を書き換えようとして、締め付けを強めている」と訴えた。
陳●さんは友人と2年前に始めた情報サイトで、新型コロナを警告した医師や、都市封鎖された武漢市民の発言を発信し、4月に突然、拘束された。陳◆さんは当時、インドネシアにおり、弟の上司から「行方不明」と連絡を受けた。弁護士を雇って所在を探したが、当局からの返答はなかく、6月になって北京の両親のもとに「騒動挑発罪容疑で逮捕され、北京市内で拘束中」と通知があった。
陳◆さん自身、2014年に香港の民主化運動のポスターを作り、3カ月間収監された経験がある。「通常は逮捕前、警察に『お茶を飲みましょう』と呼ばれ、それが警告だと分かる。弟の場合、何の前触れもなかった」と話す。
新型コロナの感染拡大では、武漢の医師や市民が現地情報をSNSで発信し、政府は投稿を相次いで削除した。だが、ネットで転載されて拡散。陳●さんは自分では記事を書かず、サイトに載せたのは公開情報ばかりだった。ただ、サイトはVPN(仮想私設網)経由で外国でも読めるようになっており、情報の国外流出を恐れた当局が逮捕を決めたとみられている。
陳◆さんは、武漢在住の女性作家、方方さんが書いた「武漢日記」が日本など外国で出版されていることに触れ、「当局は、有名人の彼女には手を出さない一方、ウイルス情報を発信する記者や弁護士を次々逮捕している」と発言。習近平政権は情報統制を強めながら、世論の反応にも配慮しているため、「超えてはならない一線」が見えにくくなったと指摘した。
陳●さんには当局から弁護人があてがわれた。陳◆さんは弁護士に電話で「弟に会ったか」と尋ねると、「新型コロナ対策で会えなかった」と言われた。
陳◆さんは自身のSNSアカウントが閉鎖された後、身の危険を感じて帰国を取りやめ、インドネシアから逃避先を探した。パリ大学の留学生として査証(ビザ)を取得し、妻と娘を連れて9月に渡仏した。「中国政府は、新型コロナ発生を『中国はウイルスに勝利した』という物語にすり替えようとしている。当初はみんな政府の情報隠しに怒ったが、世論は変わった。今は感染の疑いがある患者の個人情報がネット上に流され、罪人扱いされるありさま。政府の洗脳の成果だ」と話す。
陳●さんの裁判は今年末にも始まる予定。禁錮5年の実刑判決が言い渡される可能性がある。
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