11日(現地時間)のクーパンの上場を控え、米ニューヨーク証券取引所の建物にクーパンのロゴと太極旗(韓国の国旗)が掲揚された。 [写真 クーパン]
「顧客がクーパンなしには生活できない世の中をつくる」。
クーパンのキム・ボムソク取締役会議長(43)が米ニューヨーク証券取引所(NYSE)上場申告書に書いた創業者の手紙(レター)のタイトルだ。誰もがクーパンなしには生活できない世の中、誰もが生活で必要なクーパンをつくるというキム議長の目標であり、強い思いがにじみ出ている。キム議長は11日(現地時間)のクーパン上場で、この目標に向かってさらに攻撃的に前進することになった。クーパンは今回の上場で、2010年の創業以降累積した約4兆ウォン(約3830億円)の赤字を埋めることができる約5兆ウォンの投資金を新たに調達することになった。
キム議長は大企業の駐在員だった父について幼児期をほとんど海外で過ごし、中学生だった1994年ごろ米国に定着した。ハーバード大政治学科を卒業した後、出版社を設立して月刊誌を創刊し、同社を売却して30億ウォンを稼いだ。この資金を投じて韓国で2010年8月にクーパンを設立した。クーパンは2014年、翌日配送サービス「ロケット配送」を導入し、市場で存在感を表した。当時、国内だけでなく海外でもオンラインショッピングモールが配送を直接するところはなかった。クーパンは翌日配送を可能にするため独自の物流センターに独自の宅配システムを構築した。クーパンは現在、全国30都市に100カ所以上のフルフィルメントおよび物流センターと約5万人の職員を保有している。
クーパンが韓国の電子商取引(Eコマース)市場に導入したロケット配送の反響は大きかった。2018年には売上高が4兆ウォンを超え、4年間で10倍以上に増えた。ソフトバンクの孫正義会長はロケット配送に魅了され、3兆ウォン以上の資金を投資した。昨年から続いている新型コロナ事態はクーパンの存在感をさらに強めた。オンラインショッピングが普及すると、売上高と利用者数が爆発的に増えた。昨年の売上高は約13兆ウォンと、2019年(約7兆ウォン)比で約90%増加した。
◆ロケット配送で忠誠顧客「ロックイン」に成功
クーパンは過去10年間、一度も営業利益を出していない。にもかかわらず米投資家がクーパンに巨額をベッティングしたのは、クーパンの忠誠顧客とこれによる成長の可能性に注目したためだという。クーパン上場事情に詳しい海外金融投資業界の関係者は「海外の投資家は2016年から現在までクーパン忠誠顧客の購買指標に魅了された」とし「韓国のEコマース市場の成長の余力は大きく、クーパンがその中で意味のある成果を出していると評価した」と伝えた。続いて「米国の主要機関投資家JPモルガンは可能性がある企業に真っ先に投資するが、当初はクーパンに特に関心はなかった。しかし投資説明会を聞いて公募に飛び込んだ」と説明した。
クーパンも上場申告書で忠誠顧客をコホート(Cohort)指標で説明しながら強調した。コホートとは同一集団を意味するが、クーパンは2016-19年にクーパンを利用し始めた各年顧客集団別に年間購買金額増加率を紹介した。2016年にクーパンを利用し始めた顧客は5年後の2020年の年間購買金額が3.59倍に、2017年に利用を始めた顧客は4年後にはクーパンでの支出額が3.46倍になったということだ。クーパンの顧客は加入年次に比例して購買金額が増えていて、最近1、2年間の購買金額増加率はさらに高まっていると紹介した。例えば2017年にクーパンで年間10万ウォン支出した顧客は4年目の2020年には平均34万ウォンを支出し、2018年に10万ウォンを支出した顧客は3年目の昨年から平均30万ウォンを支出しているということだ。顧客の再購買率は2020年基準で90%に達する。
昨年末基準で最近3カ月間にクーパンで1件以上の製品を購入した人は1485万人。韓国国内インターネット利用者4800人のおよそ3分の1だ。利用者が昨年クーパンで購入した金額は四半期あたり平均256ドルと、2018年(161ドル)比で倍以上に増えた。また1485万人のうち「ロケットワウ」メンバーシップ加入者は470万人で32%にのぼる。ロケットワウ顧客は一般顧客より購買頻度が4倍多い。ロケットワウは月2900ウォン支払えば無料配送・返品や割引などの特典がつく。流通業界は顧客ロックイン(囲い込み)効果を出したロケット配送とロケットワウをクーパンの成功要因と評価している。
◆5兆ウォンでOTT・配送に攻撃的投資
上場に成功して新たに5兆ウォンの実弾を装填したキム議長は、こうしたクーパンの忠誠顧客をさらに増やすため攻撃的な投資を続けるとみられる。一部ではクーパンがイーベイコリアやホームプラスなどを買収するという予想もあるが、キム議長は他社買収に関心はないという。過去10年間に4兆ウォンの赤字を出しながらクーパンのインフラを構築したように、地方の物流センター建設に拍車を加えるという見方が多い。
キム議長は役職員に「首都圏のように釜山(プサン)や済州(チェジュ)でもロケット配送が実現されるべき」と常に強調している。クーパンは申告書でも「今後の数年間、7地域に物流センターを構築するのに8億7000万ドル(約1兆ウォン)投資する計画」と明らかにした。クーパンの投資のもう一つの軸は全方向の事業拡張という見方もある。キム議長は2018年に新鮮食品を配達する「ロケットフレッシュ」を、2019年には飲食品配達サービスの「クーパンイーツ」を開始し、飲食品配達市場にも進出した。さらにオンライン動画サービス(OTT)クーパンプレイ、旅行、広告分野に事業を拡大すると申告書で明らかにした。クーパンによると、キム議長は「今は市場をEコマース市場でなくコマース市場と呼ぶべき」という話も役職員によくする。オンラインショッピングが全体流通の日常生活のようになるということだ。
クーパンは申告書にも「4700億ドル(約520兆ウォン)にのぼる韓国の流通・食料品・飲食品配達・旅行市場でクーパンが占める比率はまだ小さい」と明らかにした。Eコマースを超えて全体流通小売市場に向かって進撃するという宣戦布告とも解釈される。また、キム議長は「ライバルはアマゾンとアリババ」と考えていると、周囲の人たちは話す。実際、電子商取引が盛んな米国、欧州、中国、日本など主要国のうち、両社が占領していない市場は韓国だけだ。キム議長はクーパンを「韓国版アマゾン」にするという構想を何度か明らかにしている。
◆アルバイト雇用・過労・労災イシューと社会的責任の強化が課題
しかし韓国Eコマース市場の競争激化、クーパンで相次いでいる労働災害は、クーパンの今後の成長の不安要因だ。最近、ネイバー、カカオ、新世界など各種流通企業が合従連衡して反クーパン連帯が形成され、競争が激化するとみられる。また過去1年間に8人の勤労者が死亡し、社会的な非難世論も多い。淑明女子大のクォン・スンウォン経営学部教授は「超短期雇用が見られる物流センターで労働災害や過労問題が持続的に発生している」とし「米国上場時に応じるべき社会的責任について省察と代案が必要な時だ」と指摘した。