■日本は富裕層を誘致したい
インバウンドの勢いが止まらない。コロナ明けの2023年以降、訪日外客数が大幅な増加を続けており、市場規模も日本国内のアパレル業界並みにまで成長。インバウンドは言うまでもなく日本の重要産業になってきている。
その中で、政府が重視しているのは「高付加価値旅行者」である。JNTO(日本政府観光局)は、高付加価値旅行者を「単に一旅行当たりの消費額が大きいのみならず、一般的に知的好奇心や探究心が強く、旅行によるさまざまな体験を通じて地域の伝統・文化、自然等に触れることで、自身の知識を深め、インスピレーションを得られることを重視する傾向にある」としている。
つまり、リテラシーがあり、ディープな日本を求めている富裕層を誘致しようとしている。
しかし、実際はどうだろうか。本当に高付加価値旅行者はたくさん来て、たくさん消費して、たくさん楽しんでいるのだろうか。
2025年5月のデータを見ると、訪日外客数、訪日中国人観光客数ともに前年比で大幅に伸びているが、日本国内の小売りを代表とする高島屋のインバウンド客の店頭売上高(第1四半期)は、前年同期比マイナス30%まで激減している。これはなぜか。
筆者は2014年からインバウンドの研究をはじめ、現在週2回のペースで訪日経験者にインタビューをしているが、その中でわかったことがある。それは日本が求めている高収入・高教養・高消費である理想の観光客は日本から離れていっているという現実だ。
訪日中国人の個人観光ビザが解禁してから10年以上が経ったが、その中で来る人たちの特徴が少しずつ変わってきている。イノベーション理論でいわれる、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードで言えば、今日本に来ているのは、流行の後追い組であるレイトマジョリティとラガードだと思われる。
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■いま日本に来ている中国人は「財布のひもが固い」
その証拠はコロナ後の中国人の訪日回数の変化から読み取れる。
下記の図の1番上の青色の折れ線は初回の訪日を表しており、下の折れ線はリピーターの推移を表している。コロナ前は初回訪日者も多いが、リピーターの割合も徐々に増えていることがわかる。
リピーターの多くはイノベーター=海外に興味を持つ高所得で高い教養を持つ中国人であり、彼らがまず日本の個人旅行市場を開拓した。それから彼らの影響を受けているアーリーアダプター、アーリーマジョリティがあとを追うように日本を訪れていた。