参議院選挙が迫る中、日本の政治・社会における重要な争点の一つとして外国人政策が浮上しています。2024年7月12日に放送されたTBSの報道番組『報道特集』では、「選挙運動の名のもとに露骨なヘイトスピーチが」と題し、この問題が大きく取り上げられました。特に、「日本人ファースト」を掲げ支持を拡大している参政党に関する報道内容とその後の反響が注目を集めています。
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TBS「報道特集」公式Xアカウントより、外国人政策に関する番組内容の紹介画像](https://news.yahoo.co.jp/articles/a029ec6f817531b9a2f8f92b48a57a775579544f/images/000)
『報道特集』が描いた参政党の主張と専門家の視点
番組はまず、急速に支持を伸ばす参政党の神谷宗幣代表の演説を引用しました。神谷氏は演説の中で、「まず自国民の生活を守る」「いい仕事に就けなかった外国人の方は、資格を取っても逃げてしまう。そういった方が集団を作って、万引きとかをやって、大きな犯罪が生まれている」と発言。これに対し番組は、「参政党は“外国人が優遇されている”と訴え、犯罪や生活保護について強硬な主張を繰り返す」と指摘しました。
一方で番組は、これらの主張に対する異論も紹介しました。有識者や外国人支援団体関係者からは、「外国人労働者は日本のものを盗むという露骨なヘイトスピーチが行われている」「“外国人が増えて治安が悪化した”と言われるが、そうはなっていない。外国人の人口が増えたが、治安の悪化には全く繋がっていない」といった見解が示されました。さらに、生活保護受給世帯165万478世帯のうち、外国人世帯はわずか2.9パーセント程度であるという厚生労働省の2023年の調査データも引用し、参政党の主張に疑問を投げかけました。
「日本人ファースト」はヘイトスピーチか?番組内の議論
番組キャスターを務める山本恵里伽アナウンサーは、大阪公立大学の准教授へのインタビューの中で、「『日本人ファースト』という言葉が一人歩きしている印象。ヘイトスピーチとは違うのか」と問いかけました。
これに対し准教授は、「日本人ファースト。それだけを取り上げると、『排外主義なの?』『ヘイトスピーチなの?』と言えてしまう」としつつ、「ヘイトスピーチで一番重要なのは、差別の扇動なんです。差別用語を一切使わずに、差別を煽るということ。つまり、『自分は直接“出ていけ”と言ってませんと』という言い訳ができてしまう」と説明しました。そして、「日本人ファーストが、その支持者に対して排外主義・ヘイトスピーチを煽るという効果。当然、言っている側もわかっていない訳がない」と述べ、言葉の表面的な意味合いではなく、その言葉が持つ扇動性や社会への影響に焦点を当てる必要があるとの見方を示しました。
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TBSアナウンサー山本恵里伽氏が報道特集で外国人政策に関する自身の考えを述べる様子](https://jisin.jp/domestic/2491427/image/1/?rf=2&utm_source=yahoonews&utm_medium=referral&utm_campaign=photo)
山本アナの問いかけと放送後の反響
番組の終盤、山本アナは視聴者に向けて次のように語りかけました。「外国人政策が争点に急浮上する中で、これまではそこまで注目されていなかった強硬な主張が、急に支持を集める、社会が決して受け入れてこなかった排外的・差別的な言葉がSNSで拡散していく。そういった現実に正直、すごく戸惑いを感じています。実際、外国籍の人たちと全く関わらずに生活をしている人は、ほとんどいないと思うんです。学校の友達だったり、職場の同僚だったり。自分の一票が、ひょっとしたら身近な人たちの暮らしを脅かすものになるかもしれない。これまで以上に想像力を持って投票しなければいけないと思います」。これは、選挙における投票行動が、社会に実在する多様な人々に影響を与えうるという、有権者への慎重な判断を促すメッセージでした。
しかし、この放送内容を巡っては、放送後から大きな波紋を呼んでいます。参政党は7月13日に公式HP上で、「TBSに対して厳重に抗議し、訂正等を求める申入書を提出しました」と発表しました。党は、「当党の外国人政策を正確に報道せず、誤導したうえで『排外的』『差別的』と断じる論調で構成され、登場した関係者はすべて当党に批判的な立場であり、擁護・理解を示す視点は一切紹介されませんでした」と主張し、「偏向報道を受けた」と訴えました。
また、参政党の声明に呼応するように、SNS上でも今回の「報道特集」の内容に対する批判的な声が広がりました。「偏向的である」「『日本人ファースト=差別』と決めつけるのは偏見だ」といった意見が見られました。特に、TBSアナウンサー公式インスタグラムの山本アナの投稿コメント欄には、「アナウンサーというものは想像力持たなくてもできるお仕事なんですね」「ここは日本ですよ。日本人ファーストの政治がおこなわれて当たり前」といった否定的な書き込みが相次ぎました。
一方で、番組や山本アナの姿勢を評価する声も多く上がっています。SNSでは、「差別を生み出しかねない流れを察知して、注意を喚起した。まっとうな反応だと思う。山本恵里伽アナがんばれ!」「正しい意見じゃないか。デマや根拠薄弱なまま外国人排斥を主張している人たちこそ、糾弾されるべき。山本アナも報道特集も何も間違っていない」「勇気ある発言に最大限の敬意を表します」といった、番組内容や山本アナのメッセージを支持する意見も見られました。排外主義的な言説が実際にSNS上で見られる現状を踏まえ、番組の報道に理解を示す層も少なくありません。
その後、参政党はTBSからの回答を公式HP上で公開しました。TBS側は回答書で、「この報道には、有権者に判断材料を示すという高い公共性、公益性があると考えております」と述べ、報道の正当性を主張しました。この回答を受け、参政党は正式にBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に申し立てを行うことを明らかにしています。
結論
『報道特集』の参政党に関する報道と、それに対する参政党の抗議、そしてSNS上での賛否両論は、参議院選挙における外国人政策の議論がいかにデリケートで、社会に大きな影響を与えうるかを示しています。「日本人ファースト」という言葉の定義、それが持つ意味合い、そして排外主義やヘイトスピーチとの関連性についての議論は、今後も続いていくと予想されます。また、メディアの報道姿勢とその公平性についても、今回の件を機に改めて問われることになりそうです。BPOによる審議の行方も、今後の注目点となります。