文科省実証試験へ 訓練データ蓄積
(写真:読売新聞)
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近い将来起きるとされる南海トラフ地震の発生確率が高まった場合に備え、文部科学省は、津波からの事前避難が必要な地域を可視化するシステムを構築する。京都大などが開発する避難訓練アプリで、地域ごとに避難の成功率などのデータを収集し、市町村の対策に役立ててもらう。今年から高知県などで実証試験を始め、2024年度までの実用化を目指す。
南海トラフ地震は今後30年以内に70~80%の確率で起きると予測され、死者・行方不明者は最大約32万人に上ると試算される。
過去には、南海トラフ(溝)全体で同時に地震が起きるケースのほか、南海トラフの東西のどちらか半分で地震が起きる「半割れ」の後、時間を置いて残り半分で地震が起きたケースがあった。内閣府は19年、この半割れが起きた時には、気象庁が「臨時情報」を発表し、地震が起きていない残り半分の地域に津波に備えて1週間程度の事前避難を求める考えを示した。
事前避難の対象地域は、津波被害が想定される東京や静岡、三重、和歌山、高知など1都13県の市町村が主に指定するが、根拠となるデータが不足していた。
文科省が構築するシステムでは、京都大や防災科学技術研究所が開発するスマートフォン向けの避難訓練アプリを活用する。
アプリでは、全地球測位システム(GPS)で自分の位置と津波の浸水状況が時間ごとに表示される。避難訓練の参加者にこのアプリを使ってもらい、「逃げ遅れた人」の性別や年代、要支援の有無、移動手段などをビッグデータとして蓄積し、避難の成功率などを地図で可視化する。市町村は地図を基に、事前避難が必要な地域を判断し、住民に避難行動を呼びかける。
今年から高知県や和歌山県などでアプリを使った避難訓練でデータの分析を始め、その後、愛知県や静岡県など にも拡大していく。
システム構築は、文科省の「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(20~24年度)の一環。同省地震・防災研究課は「客観的な根拠を示すことで、事前避難への社会の理解も得やすくなると期待している」としている。
◆半割れ=南海トラフでは昭和東南海地震(1944年)の2年後に昭和南海地震が起きたり、安政東海地震(1854年)の32時間後に安政南海地震が起きたりした。内閣府は、東西のどちらか半分でマグニチュード8・0以上の地震が起きた場合は、残る半分の地域でも同規模の地震が起きる確率が通常の100倍程度高まるとしている。