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暴力団対策法(暴対法)が1992年に施行されてから、3月1日で丸30年となる。あらゆる暴力団対策の根拠法といわれるこの法律によって、従来の法令で取り締まれなかった、企業や民間人への不当要求行為に歯止めがかけられるようになり、組員数は減少し、組織は弱体化した。一方で、近年は「半グレ」と呼ばれる反社会的勢力が台頭してきており、新たな課題も浮かび上がってきた。
【グラフ】中止命令の件数の推移
◆「暴力団」か「任侠団体」か
「もともと『暴力団』という用語は警察がつくったもの。今もそう呼ばれるのを嫌う組員は多い」。反社会的勢力の研究で知られる久留米大非常勤講師の廣末登さん(51)が解説する。
関係者によると、暴対法の施行当時、全国最大の暴力団山口組(神戸市灘区)の幹部は暴力団という名称に反発。「弱きを助け、強きをくじく。われわれは任侠団体だ」と主張したという。
暴力団は組の存在を示すことで用心棒代やみかじめ料、借金の取り立てをし、活動資金を得る。しかし、暴対法施行前はこれらの行為を刑法などで取り締まるのは難しかった。
暴対法は暴力団を「集団的、常習的な暴力的不法行為を助長するおそれのある団体」と定義付ける。その上で組員に対し、「中止命令」を発出し、違反した場合は罰則を科すと規定した。
暴力団対策に詳しい斎藤理英弁護士(東京弁護士会)は「恐喝まがいの行為でも、明確な文言を使わなければ刑法で摘発しにくい。こうしたグレーゾーンの行為を中止命令で取り締まり、資金獲得を難しくする狙いがあった」と説明する。
◆狭まる包囲網
兵庫県警が92年から2021年末までに発した中止命令は計3037件。年単位だと02年の300件をピークに減少傾向で、過去5年は60件以下で推移する。取り締まりの強化による組員の減少などが影響しているとみられる。
暴対法はこれまで複数回の改正を重ねており、土地や物件の売買、建設工事、銀行への預貯金などに関する不当要求を禁止。「使用者責任」の規定も加わり、組員の資金獲得活動による賠償責任を組長らトップに負わせることができるようになった。
◆課題は半グレ
一方、近年の課題は暴対法で対処できない反社会的勢力。一般人と暴力団の中間にいる不良集団「半グレ」の存在だ。
明確な組織を持たずに集団での暴行や特殊詐欺、みかじめ料の徴収などに手を染めるとされる。久留米大の廣末さんは「暴力団の指示を受けた半グレが『闇バイト』のような形で特殊詐欺の受け子を募集し、一般人を巻き込むケースもある」と話す。
警察も、より悪質な半グレ集団を「準暴力団」と位置付けて対策に乗り出した。捜査関係者によると、県警は3団体を準暴力団として把握。ほかにも動向を注視するグループは県内に複数存在するという。
ただ、ある県警捜査員は「半グレは法律上の定義がない。トップの名前は把握していても、組織としての活動実態はつかみづらいのが実情だ」と話す。