インタビューに答える防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治氏=2022年4月22日、東京都新宿区
ロシアのウクライナ侵攻は開始から2カ月を超え、長期化の様相を見せる。この間、ロシアは原子力発電所や病院への攻撃、民間人虐殺などの戦争犯罪が疑われる事案を繰り返してきた。防衛研究所の兵頭慎治・政策研究部長は、日本の隣国でもあるロシアとの向き合い方を考え直す必要があると指摘。政府が年末に改定する国家安全保障戦略でロシアに関する表現を改めるよう求めた。(聞き手・時事通信政治部 梅崎勇介)
【図解】ウクライナとロシアの戦力比較
戦果急ぐロシア
ロシア軍の攻撃を受けたウクライナ南東部の要衝マリウポリ=2022年4月12日
―ロシアがウクライナ南東部のマリウポリを制圧したと発表した。
実際はしていない。製鉄所の中にまだ部隊が残っている。ロシアのプーチン大統領が「制圧した」と一方的に宣言した。なぜか。当初は東部のドネツク、ルガンスク2州の完全制圧を考えていたが、(対独戦勝記念日の)5月9日までの戦果をアピールする材料がかなり厳しくなってきた。最低限マリウポリだけでも制圧し、戦果にする必要があったので、まだ完全に制圧していないにもかかわらず制圧宣言をした。政治的な判断だ。
―5月9日に向け東部2州の支配を急ぐか。
ロシアにとって最も理想的なのは、5月9日までに東部2州を完全に制圧することだ。なぜかというと、「ロシア系住民がウクライナから危害を加えてられているから、今回の『特別軍事作戦』を始めた」というのがロシアの国内に向けた説明なので、まず2州は完全に押さえないと軍事作戦の大義が説明できなくなる。ただ、9日までに2州を完全に取れない可能性が高い。
―キーウ(キエフ)への攻撃も続くか。
攻撃は続けるだろう。ただ、制圧に向けた動きではない。一つ目の目的はゼレンスキー政権に圧力をかけること。二つ目は、首都防衛に当たるウクライナ軍を引きつけておく必要がある。キーウに全く攻撃しなかったら、彼らが東部に来る。
―ロシアは新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の発射実験を行った。
ICBMは米国などに向けるものなので、このタイミングで実験したことは政治的なけん制だ。ロシアが核保有国であることを誇示する狙いがある。欧米諸国がウクライナにさらなる軍事支援をすれば、ロシアが核を使用する可能性があると示唆する話になる。
―欧米諸国の軍事支援は止まるか。
止まらないだろう。バイデン米大統領も追加の軍事支援に踏み切っている。ロシア側を勝たせるわけにはいかないと考えている。