電気自動車(EV)のバッテリー寿命に対する懸念は根強く、多くの消費者がEV購入に踏み切れない一因となっています。しかし、ドイツ自動車連盟(ADAC)が実施したフォルクスワーゲンID.3の長期耐久テストの結果は、そうした懸念を払拭し、現代EVバッテリーの優れた耐久性とソフトウェアアップデートの重要性を示しています。このテストでは、4年間にわたる16万km以上の走行にもかかわらず、ID.3のバッテリー容量低下はわずか9%に留まり、航続距離もほとんど変わらないことが明らかになりました。
ADACによるID.3バッテリー耐久性テストの概要
ドイツ自動車連盟(ADAC、日本におけるJAFに相当する組織)は、フォルクスワーゲンのコンパクトEVであるID.3のバッテリー耐久性に関する詳細なテストを実施しました。2021年にADACが購入した77kWhバッテリー搭載のID.3プロSを用いて、エンジニアが日常的に交代で使用し、定期的な100%充電や急速充電、長距離走行を含む過酷な条件下での運用が行われました。
この広範なテストの結果、16万kmをはるかに超える走行距離にもかかわらず、一充電あたりの航続距離が新車時と比較してわずか13kmしか減少していないことが判明しました。具体的には、テスト開始時の航続距離438kmに対し、17万2000km走行時点では425kmを維持していました。これは、4年間の集中的な使用でバッテリー容量がわずか9%失われたことを意味します。
ADACによる長期テストで優れた耐久性を示したフォルクスワーゲンID.3
航続距離とエネルギー効率の驚くべき改善
今回のテストで特筆すべきは、フォルクスワーゲンが実施したソフトウェアのOTA(Over-The-Air)アップデートが、バッテリー容量の自然な損失を相殺する形でエネルギー消費効率を向上させた点です。ADACが2021年に実施したラボテストでは1kWhあたり5kmというエネルギー効率を記録していましたが、ソフトウェアの改善により、現在は1kWhあたり5.47kmまで向上しています。実際の使用環境における合計17万2000kmの走行では、平均で1kWhあたり4.34kmを記録しました。
このソフトウェア最適化は、バッテリーの経年劣化による航続距離の減少を抑制し、むしろ全体の効率性を高めることに寄与しています。これにより、EVの長期的な実用性が大幅に向上することが示唆されています。
充電速度の向上とバッテリー健康度の推移
ソフトウェアアップデートは、充電速度にも好影響をもたらしました。ADACの報告によると、当初最大125kWだった充電速度は、現在では160kWまで対応可能になっています。これにより、バッテリーを10%から80%まで充電する時間が約2分短縮され、EVユーザーにとっての利便性が向上しました。
バッテリーの健康状態(SoH: State of Health)についても詳細なデータが記録されました。走行距離ごとのバッテリー容量の推移は以下の通りです。
- 2万1749km時点:96%
- 5万9166km時点:96%(変化なし)
- 6万9549km時点:95%
- 8万7020km時点:94%
- 10万2505km時点:93%
- 12万8500km時点:92%
- 14万5810km時点:91%
- 16万9651km時点:91%(変化なし)
このデータは、バッテリーの劣化が非常に緩やかであり、特に初期段階での健康度の維持が優れていることを示しています。
フォルクスワーゲン保証を大幅に上回る結果と今後の展望
今回のADACのテスト結果は、フォルクスワーゲンが提供するバッテリー保証(走行距離16万kmまたは8年で元の容量の70%以上を保証)を大幅に上回るものでした。これは、ID.3のバッテリーが保証期間を過ぎても高い性能を維持する可能性が高いことを示唆しており、EVの長期保有における安心材料となります。
ADACは今後もこのID.3の使用を継続し、最終的に25万km走行後のバッテリー状態を再検査する計画です。この追加テストにより、EVバッテリーのさらなる長寿命化の可能性が明らかになるでしょう。
テスト車両「ID.3プロS」の詳細と低温充電の課題
この長期テストに使用された車両は、ADACが2021年に購入した『ID.3プロS』仕様です。このモデルは、全長4260mm、車重1.9トン、最高出力204psの後輪駆動バージョンで、購入時の価格は税込み4万8550ユーロ(約840万円)でした。
ADACはテストを通じて、外気温が低く、バッテリーが冷えている状態での急速充電速度が大きく低下する課題も指摘しています。レポートでは、今後のソフトウェアアップデートでバッテリーコンディショニング機能を実装し、低温環境下での充電速度改善を図るべきだと提言しており、これはEVの利便性向上に向けた重要な改善点となるでしょう。
まとめ
ADACによるフォルクスワーゲンID.3のバッテリー耐久性テストは、EVのバッテリーが従来の予想よりもはるかに長寿命であることを実証しました。16万km以上の走行でバッテリー容量の低下がわずか9%に留まったこと、そしてソフトウェアアップデートが航続距離の維持と充電速度の向上に大きく貢献したことは、EVの長期的な所有に対する消費者の信頼感を高める重要な成果と言えます。また、今後のバッテリーコンディショニング機能の進化は、EVが全天候型でより実用的なモビリティとなるための鍵となるでしょう。