都市部では敬老パスのあり方が議論されている(堺市で)
高齢者がバスや電車に割安で乗れる「敬老パス」について、全20政令指定都市と東京都のうち約6割が制度を見直したり廃止したりしていることが読売新聞の調査でわかった。パスは高齢者の社会参加につながるとされるが、高齢者の増加に伴う財政負担がネックとなっている。
敬老パスは、高齢者に外出を促して健康増進を図ることなどを目的に、1970年代以降、主に交通網の整備された都市部で導入された。公共交通機関を安く利用でき、割引分は自治体が負担する仕組みだ。
読売新聞は4月、20政令市と東京都に制度の有無や運用状況をアンケート形式で尋ねた。その結果、札幌、新潟、名古屋、大阪、神戸の5市が利用上限額を設定するなど制度を見直し済みで、横浜、川崎、京都の3市が見直しを検討していた。千葉、静岡、浜松、広島の4市は2007年以降に制度を廃止していた。
一方、仙台、岡山など6市と東京都は見直しを検討しておらず、さいたま、相模原の2市は元々制度を導入していなかった。
制度を設けている自治体の負担額は今年度当初予算ベースで総額769億円。最多は東京都の199億円で、大阪など5市が50億円以上だった。
国の統計では、65歳以上の人口は1975年に約887万人だったが、2020年には約3603万人に増えている。見直しや廃止と答えた自治体の多くは、パスの利用者増に伴う財政負担を理由に挙げた。
名古屋市は今年2月、これまで無制限だった利用回数に上限(年730回)を設けた。1人で年2000回以上(運賃換算で40万円以上)利用する人がおり、利用回数の個人差を減らし、公平性を高めたという。
見直しを検討している横浜市の制度では、所得に応じた自己負担額を払えば、70歳以上はバスや地下鉄が乗り放題になる。制度を導入した1974年の利用者は約7万人だったが、現在は約40万人に上り、今年度の市の負担額は47倍の136億円に膨らんだ。70歳以上の人口は、2020年の約76万人から41年には90万人となる想定で、市の担当者は「制度を維持できなくなる可能性がある」と危機感を募らせている。