人事院の川本裕子総裁(奥)と議論する若手官僚検討チームのメンバー=3月11日、東京・永田町
将来は国を動かすはずの若手官僚が、次々に辞めている。内閣人事局によると、キャリア官僚と呼ばれる総合職の職員のうち、20代は2019年度に86人が「自己都合」で退職した。13年度の21人の4倍超だ。それ以前に志望者も減っており、22年度の総合職志望者は1万5330人、10年前の3分の2を割り込んだ。有望な学生が敬遠する背景に、霞が関の「ブラック職場」ぶりがある。
内閣人事局と人事院が合同でつくる「未来の公務を考える若手チーム」が4月下旬、霞が関の働き方の抜本改革を迫る提言を発表した。私生活を犠牲にして働く「24時間戦士」が前提となっている職場環境を改め、硬直化した「年功序列」にメスを入れるよう求める抜本的な内容だ。提言作成に先立ち、離職した元官僚たちへの聞き取り調査を実施。すると「表向きは言えなかった」という職場への不満が次々に吐露された。
チームは30代前半中心の男女8人。人事院トップが設置した「公認」組織という異色の成り立ちを持つ。上層部に「もの申す」ようにあえて若手に促したトップの狙いは何か。そして若手の叫びは、霞が関の風土を一新する起爆剤となるか。(共同通信=伊藤元輝)
(写真:47NEWS)
▽過酷な環境では異常性に気付けない
チームのメンバーで人事院の井上ちかさん(37)は3年半前、霞が関のある繁忙職場に出向して驚いた。人事院の前任職場とは異なり、答弁準備などのいわゆる「国会対応」をはじめとした膨大な業務に追われ、多忙を極める毎日だった。
井上さん自身は子育てを理由に午後8時半ごろに「早退」することを許されたが、ほかの同僚は職場から終電に駆け込むのが日常だった。「もうこれ以上は持ちません」。そう言い残して去ってゆく上司の背中を見送った。直属の上司が立て続けに2人も辞めて、別の班の班長も去ったのだ。任期付きで働く職員は、更新を断った。
「うわさに聞くブラックなイメージを、それまでは肌感覚では分かっていなかった」
井上さんが人事院からの出向者と知る同僚からは、冗談めかしてこう言われた。「この現状、人事院でどうにかならないの」。苦笑いするしかなかった。人事院に戻ってからも「同僚の嘆きを思い出し、ぐるぐると考え続けていた」。