【ノーベル賞の『ノーヴァヤ・ガゼータ』から】 「民族の牢獄」で兵士が集められ、かえって問題を悪化させる
プーチン大統領=CC BY /Kremlin.ru
『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』のマルティノフ編集長は、自身が出演する「怖いニュース」で、ロシア国内で動員論議が高まっていること、刑務所で囚人が兵士として集められていることを取り上げ、動員令を出しかねないほどロシアの政権は狂っていると指摘する。一方、動員・徴兵すれば問題はかえって悪化すると主張した。更にロシア全体が「牢獄」のようになっているとも論じた。
以下、その部分の訳である。
************
マルティノフ編集長のビデオ(https://novayagazeta.eu/articles/2022/09/18/putin-losing-his-grip-ukraine-liberates-izium-russian-propaganda-in-agony)
動員論議は12分25秒から18分00秒までの部分
************
ロシアの軍事的敗北に対する反応の一つとして、ロシアの“政治家達”―もし彼らを政治家と呼べるのなら―は、何らかの動員を始めるよう、呼びかけ始めた。
ジュガノフ・ロシア共産党党首は、「動員が必要だ」と発言した。その後、ロシア共産党の別の代表達は、「いや、ジュガノフは(徴兵ではなく)別の動員を意味したのだ」と説明した。その趣旨はどうやら、我々が皆、誇りを持って参戦し、社会全体が取り組むという意味で、単に召集令状を皆に送るという意味ではなかったらしい。ロシア共産党の代表は、「ジュガノフ党首の言葉を歪曲する者は皆罰せられるべきだ」とも言った。
ロシア共産党は、人類愛にあふれた党のようだ。私はかつてロシア共産党に投票したこともあった。それ以外にどんな選択肢があったのか・・・。
そしてタカ派の―かつニワトリのようでもある―カディロフ(チェチェン共和国首長、プーチンに忠実でウクライナ侵略に加担している)は、「市民としてまた愛国者として、直ちに動員すべきと思う」と発言した。この男は、謝罪ということをしたことがない。彼の場合は、もちろん、皆に召集令状を送るという、本当の軍事動員を意味している。
しかしこの動員は、ロシアの現実世界でどのようになされるのだろうか?動員したがっている人々は、プーチンのスパイであり、同時にプーチンの敵でもあるとすら思う。(訳注:プーチンの手下として動員の必要性を触れ回っているが、同時に動員がプーチンに害ももたらしかねないとの意味)
ロシアの現場でいかに管理が行われているのか、国勢調査や選挙など大規模行事がどのように行われるのか・・・これらに実際に携わったことがあるに人達はよく分かっているのだが、ロシアにおけるこれらの大規模な行事は、すべて嘘、でっち上げの数字、偽りの統計に基づいている。
そして、実際に軍隊のために誰かを徴兵するとして、それはどのように行われるのか。今日のロシアでの強制動員とはいかなるものになるのだろうか? 武装した男たちの一団が、モスクワのビリュリョヴォ地区に入り、アパートのドアを壊し、集めた全員の頭をバリカンで刈り上げ、「さあ、ウクライナに死に行こう」と。
このやり方はどれほど効果的だろうか? 一体どれだけの人がそのような軍隊で戦いたいと思うだろうか? ロシアはこのような動員で、どれだけ人を集められるのだろうか?
これは全くとんでもないシナリオだ。確かに、ロシアの政権は、ある時点で動員に踏み切るかもしれない。それほど狂っていると私は思う。
他方、これまでのところ、何かが彼らがそうすることを阻んでいる。動員令を出す時、プーチンは宣戦布告しなければならない。それは彼が既に敗れていることを認めることも意味する。
プーチンがいわゆる「オペレーション」(「作戦」あるいは「手術」)を始めてから7ヶ月が経った。彼は外科医のように、いつもそこで手術し、誰かにはヘルニアの手術をし、自分自身にも何かをして、分ったのだ。これが戦争だったと。そして今、私たちには動員が必要だ、というわけだ。
もう一つの問題は、私は、ロシアの抑圧的な装置は、最後には“過熱”すると思う。ロシアの政権は動員によって大きな負担を強いられ、前線で得られるメリットよりも遙かに大きな問題を抱え込むことになる。
これはウクライナでの動員と対照的だ。もちろん、ウクライナでもある種の強制があるが、一般の人々は自分たちが何のために戦っているのか理解している。他方、ロシア国民に、なぜ戦う必要があるのか、いかなる価値のために死なないといけないのかを説明することは、全くできないと私には思える。
ところで、プリゴジン(民間軍事会社「ワグネル」の最高幹部)は最近かなり興味深い発言をした。彼は、ウクライナ人を殺すために囚人を兵士として募集する必要性を説明して、「戦争に囚人を送らなければ、あなたの子供を送ることになる」と発言した。その場合、誰もが、自分の子供ではなく「囚人を送れ」と言うだろう。囚人をかわいそうだとは思わないようだ。
インターネットで出回った、プリゴジンと囚人の対面のビデオは、実際には演出されたもののように見える。プリゴジンのプロモーション・ビデオなのだ。彼がどれほど偉大な愛国者であるかを示す。
プリゴジンは、プーチンから「何をしてもいい」と許されているようだ。彼にとり法律は何でもない。ロシアのあらゆる法令に反して、刑務所の中庭で兵士を募集し、そこで部隊を組織する。プリゴジンは囚人に、ワグネルがどのような素晴らしい軍用機を持っているのか、どのように完璧に戦うのか、どれほど高給を支払うのか、そしてどうやって自由になれるのかを語った。運がよくて生き残ることができれば、金持ちにもなれる・・・。
この活動には、憲法も法律も関係ない。死んでも構わないと思っている人々を集める興味深い方法だ。そんなビデオをインターネットで公開する必要があるということは、ロシアで物事がうまくいっていないということだろう。結局、刑務所で囚人を集めなければならないということは、何を意味するのだろうか? その意味するところが何であるか・・・、それを誰も否定はできないだろう。
以前、ウクライナ人の友人が、ウクライナに何が起こったのかを分析しようとした。そしてその友人の結論は、ウクライナは「牢獄から」攻撃されたというものだった。あらゆる意味で、「牢獄から」である。「民族の牢獄」とは、ロシア帝国を指す、有名な決まり文句である。「牢獄」とは、盗賊仲間の考え方がはびこり、悪党の法がまかり通る場所だ。プリゴジン達が兵士を集めているのも、文字通りこのような「牢獄」においてである。
2022年9月18日発表(翻訳:村木洸太郎)
©Novaya Gazeta Europe(無断転載を禁じる)
村木 洸太郎 (翻訳者)