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ウクライナ侵攻をめぐりロシアの軍事組織内部で亀裂が深まっている。プーチン大統領の側近で、民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏が、プーチン氏に直接、軍の失敗を指摘した。政権の内紛でパワーバランスが崩れた場合、「プーチン氏に引導が渡される可能性もある」と専門家は指摘する。
【写真】ウクライナ軍の攻撃で破壊されたとするロシア軍陣地
米紙ワシントン・ポスト(電子版)によると、プリゴジン氏は、ロシア国防省がワグネルの傭兵(ようへい)部隊に頼る一方、必要な支援をしていないとプーチン氏に直訴した。軍事的劣勢を背景に「プリゴジン氏が影響力を強めたことや、国防省幹部の指導力の不安定さを浮き彫りにした」と同紙は指摘した。
プリゴジン氏は食品関連企業を経営するオリガルヒ(新興財閥)の1人で、9月に初めてワグネルの創設者だと認めた。
プリゴジン氏はチェチェン共和国のカディロフ首長による軍指導部批判に同調したこともある。ショイグ国防相の解任論もくすぶり、国防省の立場は厳しくなっている。
前線でもワグネルの影響力は強まっている。ロシア軍の兵力不足を補うため、受刑者を兵士として集めたり、東部ドネツク州の戦略的要衝バフムトには同社の傭兵が投入されているという。
南部ルガンスク州でも「ワグネル線」「プリゴジン線」と呼ばれる防御線を構築していると露独立系メディア「メドゥーザ」が23日、報じた。
南部へルソン州の州都へルソン市では、ロシア軍が撤退するとみられていたが、ロイター通信によると、ウクライナ政府高官は「最も激しい戦闘」を警戒している。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「プリゴジン氏は、プーチン氏に直接グチを漏らせるまでに権力を蓄え、実質的に国防相か、それ以上の立場になりつつある。強硬派の意見は前線に反映され、攻撃はさらに非道さを増すだろう」とみる。
プーチン氏の盟友とされるプリゴジン氏だが、両者の関係も変わってくるかもしれない。中村氏は「プリゴジン氏が目指しているのはウクライナの『焦土化』だ。一連の要求に応えられない場合、プーチン氏に引導を渡す可能性もある」と分析した。