ウクライナ侵攻の報い ロシアは経済制裁で「経済的にも軍事的にも取るに足らない国になる」 輸入、農業、技術や金融…悲観的な事態に


ウクライナ侵攻の報い ロシアは経済制裁で「経済的にも軍事的にも取るに足らない国になる」 輸入、農業、技術や金融…悲観的な事態に

ロシアのプーチン大統領

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月7日、ウラジオストクでの東方経済フォーラムで、「ロシアは、特別軍事作戦で何も失っていない」と虚勢を張っていたが、西側諸国の経済制裁は確実にロシア経済を弱体化している。

【写真】ウクライナ軍の攻撃で破壊されたとするロシア軍陣地

米ブルームバーグは9月6日、ロシア政府の内部資料を根拠に、「ロシアでは欧米による制裁の影響が広がるなか、より長期かつ深刻な景気後退に見舞われる可能性がある」と報道した。

この内部資料は、ウクライナ侵攻に伴うロシアに対する経済制裁の影響を正確に判断しようと、専門家らがまとめたもので、プーチン氏などが示す楽観的な公式発表に比べて、はるかに悲観的な内容になっている。

内部資料で示されたシナリオ3つのうち、2つは経済縮小が来年加速し、経済が戦争前の水準に戻るのは2030年以降だとしている。

技術や金融分野の制裁も強い下押し圧力になる。最大20万人のIT技術者が25年までに国外に出る可能性があり、これは深刻な頭脳流出だ。

輸入について、主な短期的リスクは、原材料・部品の不足に伴う生産停止だ。より長期的には、輸入した装置が修理不能に陥り、成長が恒久的に制約される。極めて重要な一部の輸入品については、代替のサプライヤーがまったく存在しない。

政府が重視してきた農業分野でも、依存する主要原料の供給縮小に伴い、国民が食料消費の抑制を迫られる可能性がある。

西側の技術へのアクセスが制限されているため、ロシアは中国や東南アジアの先進的ではない代替品に頼らざるを得ず、現在の基準から1~2世代遅れてしまう可能性がある。

航空分野では、旅客輸送量の95%が外国製飛行機で占められており、輸入スペアパーツが入手できないため、運行停止に伴い航空機産業が縮小する可能性がある。

機械製造分野では、ロシア製の工作機械は全体の30%にすぎず、国内産業では需要増をカバーする能力がない。

医薬品分野では、国内生産の約80%を輸入原料に依存している。輸送分野では、EU(欧州連合)の規制により、陸上輸送のコストが3倍に上昇する。

通信とIT分野では、SIMカードの規制により、25年までにSIMカードが不足し、22年には通信分野が世界のリーダーから5年遅れる可能性がある。

軍事分野では、西側のハイテク技術や部品(=特に半導体)が入手できないために、最先端の兵器を開発し製造することは困難になる。例えば、航空機、艦艇、ミサイル、戦車など、各軍種の最重要な兵器を開発・製造できなくなる可能性は高い。つまり、ロシアは「経済的にも軍事的にも取るに足りない国」になる可能性があるということだ。

プーチン氏の愚挙は、彼自身の地位を脅かすことになるであろう。

わたなべ よしかず 元陸上自衛隊東部方面総監、元富士通システム統合研究所安全保障研究所長、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書・共著に『日本はすでに戦時下にある』(ワニブックス)、『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』(同)など多数。



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