梨泰院のメインストリート「世界食べ物通り」は人通りがなく、静寂に包まれていた=4日夜、韓国・ソウル市
150人以上が犠牲となった韓国ソウル・梨泰院(イテウォン)の雑踏事故から5日で1週間となる。韓国屈指の歓楽街は、家族や友人を失い、涙を流しながら手を合わせる人たちであふれ、歩道は追悼の白い花で埋め尽くされた。ネット上には「犯人」に関する情報が交錯し、警察も捜査に乗り出したが、原因解明には至っていない。警察のずさんな対応が被害を拡大させたという批判は日増しに高まっている。(ソウル山口卓、平原奈央子)
【動画】静寂包む梨泰院
4日午後7時、事故現場近くの歩道の一角では、多くの人が涙を流しながら目を閉じ、手を合わせていた。路上に手向けられた白い花には「また会いたい」と書かれた付箋が添えられていた。犠牲者の大半は若者。20代男性は「同世代の人たちが亡くなり、じっとしていられなかった」と話し、うつむいた。
クラブや飲食店が並ぶメインストリート「世界食べ物通り」は全ての店の照明が消え、看板の電飾が通りをわずかに照らすだけ。店の外壁にはハロウィーンのカボチャの飾りが残る。ゲームセンターの店員が黙々と店を片付けていた。
人通りはほとんどない。経営する焼き肉店の掃除に来た男性(47)は「当日は事故が分からないまま営業していて、今も胸が痛い。生活のために立ち直らないといけないけど、年内は難しそうだ」と話した。
事故直後、交流サイト(SNS)に「ウサギのカチューシャをした男性が『押せ』と叫んだ」という投稿が相次いだ。警察は現場の映像などから男性を特定し、参考人として聴取。だが男性には事故発生前の10月29日午後9時55分に梨泰院駅から地下鉄に乗った交通カードの記録があった。男性はSNSに「魔女狩りはやめて」と書き込んだ。
警察は「ウサギのカチューシャをした女性」も疑惑があるとして取り調べる予定だが、情報が入り乱れており事故原因解明には時間がかかる見通しだ。
韓国メディアは事故発生の約3時間40分前から11件の通報があったのに、地元警察署長が署員らと外出して食事をしていたと報じた。尹熙根(ユンヒグン)警察庁長官も就寝中でメールなどに気づかず、事故発生から2時間後に事故を知ったという。
当日の梨泰院の人出約13万に対し、配置された警察は137人。雑踏警備を専門とする警察の機動隊はわずか20人で、都心のデモや集会には約4千人も配置していたことも分かった。
現地メディアが4日に公表した世論調査で「政府と地方自治体に責任がある」と答えたのは73・1%、警察の配置と事故の関係を否定する発言をした李祥敏(イサンミン)行政安全相の辞任を求める声も56・8%に上った。