ウクライナ軍による奪還後も南部ヘルソンは砲撃にさらされる
「ウクライナの軍事的な勝利がすぐに起こる確率は高くはない」
アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長の発言だ。
ロシア軍の後退や苦戦が伝えられるものの、ウクライナが求める自国領土からロシア軍が完全に撤退は、軍事的に極めて困難だと指摘している。
ウクライナの軍事的勝利も、ロシア軍の撤退も、すぐには起きないというなら、今後どうなっていくのか。考え得る3つのシナリオとその実現性を検証した。
特に3つ目は、解決というより、むしろさらなる悲劇につながりかねない懸念をはらんだシナリオだった。
【シナリオ1:外交による解決】―進められている非公式交渉
非公式の外交交渉は続いているというが…
アメリカのサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が、ロシアの高官と極秘で協議を続けていることが最近、報じられた。
アメリカ政府も報道を否定しなかったように、ロシアと欧米、ウクライナの間で様々なルートを通じて非公式な交渉が行われている。
じつは現役の高官らだけではなく、元高官らも過去の人脈を生かして各国の間で連絡を取り合い必死に落としどころを探っている。外務省の元高官は、侵攻後、ウクライナやドイツなどを盛んに行き来していることを明かしてくれた。
■相容れない条件
ウクライナの要求はあくまでロシア軍の完全撤退
問題は、その落としどころだ。いくら話し合いを続けても、歩み寄りはなく平行線のままだ。
単純化すれば、ウクライナは自国の領土からロシア軍が完全に撤退することを要求している。一方で、ロシアは一方的に編入を宣言した東部はロシア領だと変わらず主張していて、引き下がろうとはしない。
14年にロシアが編入したとしているクリミアの扱いも落としどころを見出しにくい課題だ。
また「停戦」は、再び攻撃を行うための時間稼ぎに過ぎないとロシアとウクライナの双方が疑っている。
この不信を払しょくし、停戦中に次の戦いを準備しないという確証をどう示せるか答えは見つかっていない。
「停戦」を再度戦闘が起こさない完全な「終戦」にするには「譲歩」しかないが、戦況で優位に立つとみられるウクライナが領土割譲をのむとは現状では考えられない。連日ウクライナ全土のインフラなどにミサイルの雨を降らせるロシアが動く可能性はあるのだろうか。