FBIによるプリゴジン氏指名手配書(FBIのサイトから)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻について長期化するとの見通しを示した。核兵器の脅しも使うが戦況の劣勢は誰の目にも明らかだ。プーチン氏の求心力に陰りが見えるなか、政権内で力を強め、「ポスト・プーチン」との観測も浮上するのが民間軍事会社「ワグネル」創設者で実業家のエフゲニー・プリゴジン氏だ。強硬派と知られる側近が謀反を起こすのか。
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プーチン氏は7日、ウクライナでの軍事作戦が「長期にわたる可能性がある」と発言。「(黒海北部の)アゾフ海がロシアの内海になった。(帝政ロシアの)ピョートル1世はアゾフ海進出を目指し戦った」と皇帝になぞらえて侵攻を正当化し、世界的な核戦争のリスクについて「脅威が増している」と語った。
プーチン氏の強気とは裏腹に、ロシアの空軍基地が無人機(ドローン)で攻撃されるなど混乱は続く。そうしたなか、ウクライナで苦戦するロシアの正規軍を批判するなど、発言力を増しているのがプリゴジン氏だ。
新興財閥「オリガルヒ」として知られるプリゴジン氏は、ウクライナの前線に傭兵部隊を派遣する「ワグネル」の創設者であることを最近になって認めた。
11月に行われた米中間選挙を含む米国の選挙に介入してきたことも公言している。インターネット企業を使ってトランプ氏を大統領選で勝たせる工作を行ったとして、米連邦捜査局(FBI)はプリゴジン氏を賞金25万ドル(約3400万円)で指名手配した。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「米中間選挙の最中にフリーハンドの発言をすることで米国を相手に自身の影響力を誇示し、『プーチン大統領より上だ』とアピールした形だ。24年のロシア大統領選への事実上の〝出馬宣言〟とみることもできる」と解説する。
露独立系メディア「メドゥーザ」などによると、プリゴジン氏は1990年代にサンクトペテルブルクでホットドッグの屋台を始め、97年ごろに同市でレストランを開業。当局の職員や副市長だったプーチン氏も客となり、信頼を得た。
プーチン氏が大統領となってから、クレムリン(大統領府)とケータリング契約を結んだほか、フランスのシラク元大統領、ブッシュ元米大統領ら海外要人との会食もプリゴジン氏の店で行われるなど、「プーチン大統領の料理人」と呼ばれるようになった。
プリゴジン氏が、軍事作戦を公に支える勢力となったことで、政府当局者や富裕層が身の安全への不安を募らせているとブルームバーグは伝えた。現状を「軍事クーデターなしの軍事独裁」と呼ぶ向きもあるという。
前出の中村氏は「24年の大統領選に向けて、言論統制や官僚への締め付けが強まれば、密告や猜疑心が横行したスターリン時代に近づく恐れもある。ほかのオリガルヒもプーチン氏の求心力低下によって既得権を失うことを恐れているのではないか」と指摘する。
プーチン氏はもはや「まな板の上」なのか。