
次期米大統領選に出馬表明したトランプ氏=米フロリダ州で2022年11月15日、AP
トランプ前米大統領(共和党)が11月15日に2024年の次期大統領選への出馬を表明してから1カ月が経過した。しかし、党内で支持表明の動きは広がらず、世論調査でも好感度が急落するなど好材料は乏しい。共和党支持層には根強い人気があるものの、対抗馬と目される南部フロリダ州のデサンティス知事との「1対1」を仮定した調査では劣勢の結果が出るなど、党内での圧倒的な存在感に陰りが出ている。
【近年の米大統領1期目の与党の中間選挙結果】
◇肩すかしの「重大発表」
トランプ氏は12月15日、自身が立ち上げたソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で「重大発表」を行った。注目を集めようと前日に予告までしていたが、発表されたのはトランプ氏がヒーローキャラクターのスーパーマンに扮(ふん)した姿などを描いた「デジタルアート」の販売開始の告知だった。
1点99ドル(約1万3600円)で、購入者は「トランプ氏との会食やゴルフの機会の権利」を巡る抽選で当選確率が増すとの誘い文句がある。運営サイトは「トランプ氏の政治活動とは関係なく、収益は大統領選の運動資金にはならない」としているが、米メディアは「トランプ氏の新たな資金集めの手法」と指摘している。
肩すかしの発表内容に対して、24年の大統領選再選に意欲を見せる民主党のバイデン大統領はツイッターに「私もここ数週間で重大発表をした」と皮肉を交えて投稿し、同性婚の権利を保障する連邦法の成立やガソリン価格の下落などをアピールした。
今回の「重大発表」に象徴されるように、出馬表明後のトランプ氏は空回りが目立つ。表明後には共和党の政治家らに早期に支持を表明するよう促したが、260人超の共和党の連邦議会議員のうち支持を明らかにしたのはトランプ派の10人前後にとどまっている。
11月下旬には自宅で、知人の人気ラッパー、イェ(旧名カニエ・ウェスト)さんが連れてきた反ユダヤ主義者と会食したことが批判を浴びた。また12月上旬、大規模な選挙の不正があった場合は「憲法の停止」さえ容認されると主張。憲法を重視する共和党議員らから非難され、「大規模な不正があれば、誤りを正す措置をとらなければならないと言っただけだ」と釈明を余儀なくされた。
◇デサンティス氏に劣勢の調査も
世論調査でも、トランプ氏は勢いを欠いている。ユーガブ社の12月1~5日の調査では、共和党の大統領候補として党員や共和党寄りの無党派層の計35%がトランプ氏を支持し、デサンティス氏(30%)やペンス前副大統領(5%)らを上回った。しかし、トランプ氏とデサンティス氏の一騎打ちだと仮定した場合は42%で並び、このうち共和党寄りの無党派層ではデサンティス氏(48%)が17ポイント上回った。他の世論調査では、デサンティス氏との1対1は数ポイント差で劣勢という結果が相次いでいる。
政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が集計した好感度調査の平均値でも、11月の中間選挙直前の41・6%から35・9%に急落し、トランプ氏が初当選した16年の大統領選以降では最低を更新した。
中間選挙では、トランプ派の候補は無党派層から敬遠され、接戦区で民主党候補に相次いで敗れた。世論調査も党内での根強い支持がある一方で、無党派層への訴求力の弱さが浮き彫りになっており、党内では「トランプ氏では24年の大統領選で勝てない」との声が高まっている。
ただ、トランプ氏が共和党の候補指名争いの本命である状況は変わっていない。世論調査からは、候補者が乱立すれば、強固な支持層があるトランプ氏が相対的に有利になる傾向がうかがえる。トランプ氏は、候補者が乱立した16年大統領選の候補指名争いで、3~4割台の得票率で序盤の州を制して勢いに乗った経緯がある。
トランプ氏以外の候補が一本化されれば、トランプ氏の優位も揺らぐ。ただ、18年の知事選でトランプ氏の全面支援を受けて「ミニ・トランプ」とも呼ばれたデサンティス氏や、トランプ前政権で副大統領を全うしたペンス氏は、中道寄りの党穏健派とは政策面で温度差がある。現時点でトランプ氏以外に出馬表明した候補はいないが、ポンペオ前国務長官やヘイリー元国連大使、南部バージニア州のヤンキン知事など、多彩な候補の名前が挙がっており、一本化への道は見えない。【ワシントン秋山信一】