【ワシントン=蒔田一彦】米国の機密文書がインターネット上に流出した事件で、マサチューセッツ州の空軍州兵ジャック・テシェイラ容疑者(21)が逮捕されて13日で1か月となった。ロシアのウクライナ侵略に関する分析などが漏えいし、米国の機密情報管理の信頼を揺るがす一方、米軍の構造的な問題も露呈した。再発防止に向けた課題は多い。
【図表】ネットへの流出が報じられた米機密文書の同盟国に関する主な記述
作戦上必要
米国のオースティン国防長官=AP
(写真:読売新聞)
オースティン米国防長官は11日の上院公聴会で、「機密情報を守るためのプログラムや手続きの包括的な見直しを指示した」と述べた。バイデン政権は機密情報を閲覧できる人員を制限することを検討中だ。
ただ、範囲を狭めるのは容易ではない。21歳のテシェイラ容疑者が技術支援要員として「最高機密」を含む機密情報を扱う権限を持っていたことを問題視する見方もあるが、オースティン氏は「軍の大半は若い人たちだ。重要なことを行うのは特別ではない」と述べ、下級兵士に権限を与えること自体が問題ではないとの考えを示した。
米軍が世界各地で行う作戦で、州兵が大きな役割を担っている実態も浮き彫りになった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、テシェイラ容疑者の所属部隊は、ドイツに駐留する米空軍部隊と連携し、ロシアのウクライナ侵略に関する情報収集活動を行っていた。冷戦終結後の米軍の兵力削減や対テロ戦争の長期化で州兵の役割は拡大し、無人機を使った情報収集や攻撃は空軍州兵の主要任務になった。専門家は「米軍は州兵なしに世界規模の作戦を継続的に遂行できない」と指摘する。
発言の自由
国家機密を扱う適性評価「セキュリティー・クリアランス」という制度の見直し論も上がる。テシェイラ容疑者は2021年に軍の適性評価を受けて機密情報の権限を取得したが、司法当局などによると、以前から銃や武器に強い関心を持ち、高校時代には武器や人種差別に関する発言で停学処分を受けていた。自宅からは殺傷能力の高いライフルなど複数の武器が見つかった。
テシェイラ容疑者がオンライン通信サービス「ディスコード」のグループ内で機密情報の共有を始めたのは昨年2月とみられるが、米政府が流出に気付いたのはツイッターなどに拡散した今年4月だった。元情報当局者は米紙ポリティコに対し、「ネット上で自由に発言する権利を守る一方、何が行われているか把握するという二律背反を解決する方法は見つかっていない」と対応の難しさを吐露した。