(写真:朝鮮日報日本語版)
6月初め、企画財政部(日本の省庁に相当、以下同じ)が担当記者に電子メールで配布した報道釈明資料が官庁街で話題となった。「年金所得に対する低率分離課税基準金額の拡大案件はまだ何も決まっていない」という内容そのものは特にどうというわけではなかったが、添付ファイル名が「年金所得低率分離課税拡大関連(シルス〈失敗の意〉)」となっていたためだ。
【写真】2017年7月20日に文政権の大統領秘書室が政府機関に発送した積弊清算関連公文書
「シルスとは一体何を意味」するのか担当記者たちの間で話題になっていた時、企画財政部は「シルス」を「配布用」に変えた修正版を再び配布した。
「シルス」とは公務員の間で使われる略語で、「室長(シルチャン)の指示で修正(スジョン)した」という意味だ。同様に「チャス」「ククス」「クァス」は次官、局長、課長が修正を指示したという意味だ。ククス1、ククス2のように数字が後ろに付くのは修正するよう指示した回数を意味している。その他の省庁でもこうしたファイル名が広く使われているという。
このハプニングについて退職した元官僚たちに話してみたところ、皆驚きを隠せないといった表情とともに舌打ちをした。これら元官僚たちが現役だった頃は、実務者が作成した草稿が上司の指示により内容が変更される場合、日付でファイル名を区分したという。ある元官僚は「後で政策が間違っていた場合、監査院の監査や検察捜査を受ける際に、実務者が本人の責任ではないということを立証するために文書を修正した人の職責をファイル名に加えて表示している」とし「大韓民国の政策を公務員本人たちがリードしたという自負心よりも、追及を恐れる責任逃れと保身主義に陥ったもの」と肩を落とした。
このような慣行が正確にいつから始まったものなのかは定かではないが、官庁街に根付いたのは文在寅(ムン・ジェイン)政権の積弊清算のためだという見方が多い。
「積弊の徹底的かつ完全な清算」は、文政権の100大国政課題の第1号だった。当時、各省庁が大統領府の指示により積弊清算のためのTF(タスクフォース、作業部会)を構成し、前政権時に俗称「出世街道を走った」公務員に対する報復人事に乗り出した。教育部の場合、歴史教科書の国定化を担当していた多くの公務員を検察に捜査依頼した。同じ職場の公務員同士が他の同僚を告発したことについて「同族相残」や「破倫」といった殺伐とした単語が使われるほどだった。ある局長クラスの公務員は「政権交代後、同僚たちが苦境に立たされているのを目撃した公務員の間で『積極的に働くと、むしろ処罰を受ける恐れがある』という伏地不動(地に伏して動かないさま)が広がった」と話す。