NHK ONEの波乱の船出:トラブル続出と利用者の不満、そしてコンテンツ戦略の課題

放送開始から100年という節目を迎えたNHKが、満を持してネット配信サービス「NHK ONE」を始動させました。公共放送の新たな一歩として、「ラジオ、テレビに続く“第三の開局”」と局内では意気込んでいたものの、サービス開始初日からシステムに不具合が頻発し、現場は深刻な混乱に陥りました。エースアナウンサーが次々と謝罪するという異例の事態に、早くも局内からはサービスの無用論が浮上しています。

「放送法改正」がもたらした「ネット配信」の必須業務化と受信料問題

今回の新サービス開始の背景には、1日に施行された改正放送法が深く関わっています。これまでNHKが受信契約を結べる「必須業務」は「放送」のみでしたが、改正により「ネット配信」も新たにその対象となりました。これにより、受信契約を結んでいない利用者が「NHK ONE」を視聴する場合、月額1,100円の受信料支払いが必要となるはずでした。

しかし現状では、アカウント登録をせずとも無課金で視聴できる状態が続き、「フリーライド(便乗視聴)」を阻止する仕組みが機能していません。受信料を支払っている視聴者には追加料金なしで利用できるとはいえ、この不公平感は否めないでしょう。メディアコンサルタントの境治氏は、「サービス開始初日に登録しようとしたコアなNHK視聴者がトラブルに巻き込まれ、無駄な時間や手間を強いられたことは、NHKが大いに下手を打ったと言える」と厳しく指摘しています。

NHKの新ネットサービス「NHK ONE」開始直後の混乱と課題を示すイメージNHKの新ネットサービス「NHK ONE」開始直後の混乱と課題を示すイメージ

期待外れのコンテンツと失われた独自性:旧来の人気記事はどこへ?

「NHK ONE」のサービス内容は、残念ながら目新しいコンテンツがほとんどないと指摘されています。これまでのNHKウェブサイトでは、安倍晋三元首相や菅義偉元首相など大物政治家に深く切り込む「政治マガジン」や、注目事件の裏側に迫る「事件記者取材note」など、テレビニュースでは伝えきれない独自性の高い記事が多数公開されていました。これらのコンテンツは、尺の制約があるテレビ放送とは異なる深掘りした情報を提供し、多くの読者から支持を得ていました。

しかし、今回の新サービスへの移行を前に、これら全ての独自コンテンツが廃止されてしまったのです。さらに、過去記事のアーカイブも削除されるという事態に至っています。ベテラン放送記者は、「これまでの独自の深いコンテンツが失われたことは、利用者にとって大きな損失であり、『NHK ONE』の魅力低下につながっている」と懸念を示しています。新サービスが提供する主要コンテンツは既存のテレビ番組の同時配信や見逃し配信が中心であり、かつてのウェブサイトが持っていた情報価値は大きく後退したと言わざるを得ません。

結び

「NHK ONE」は、公共放送NHKがインターネット時代に対応するための重要な一歩となるはずでした。しかし、サービス開始直後のシステムトラブル、受信料制度との整合性の問題、そして何よりも期待された独自コンテンツの喪失は、多くの利用者や専門家から厳しい目を向けられています。NHKが「第三の開局」として真に国民に資するデジタルサービスを提供するためには、技術的な安定性、公平な料金体系、そして何よりも魅力的なコンテンツ戦略の再構築が急務であると言えるでしょう。

参考文献