ヤマザキマリ氏「海外旅行者がなぜTシャツと短パンなのか?」と問われ、あるイタリア人教師を思い出す。外国人旅行客の「愚痴」とは

外国人旅行客

海外旅行と服装の関係性

2022年の秋から円安が続いている日本では、コロナ禍の規制緩和とその効果が重なり、多くの外国人観光客が訪れています。

岩手県盛岡市は、春に『ニューヨーク・タイムズ』の「2023年に行くべき52ヵ所」という特集記事で2位に選ばれました。その結果、岩手を訪れる外国人観光客が急増し、私が取材で訪れた秘境の温泉宿でも、Tシャツとバックパックを背負った外国人の姿が目に入りました。また、熊野古道の古い温泉旅館でも外国人の旅行客に出会いました。

すると、彼らが散策に出かける姿を見送った宿の人が「外国人旅行客ってなぜみんなTシャツと短パンなんだろうね?」と突然尋ねてきました。

私は「Tシャツと短パンは欧米人旅行者の定番スタイルですよね」と答えると、「どんなに雨や寒くてもあの格好なんだからなぁ」と感心したり呆れたりする反応を見せました。そこで、かつてイタリアのフィレンツェに住んでいた頃、ラフな旅行服装について文句を言っていた美術学校の先生を思い出したのです。

ここを南国のビーチと取り違えている

その先生は70歳を過ぎていて、離婚後に独身生活を満喫し、夜になるとアメリカ人やドイツ人の女性をナンパしている様子が生徒たちによって何度か目撃されていました。

私はシニョーリア広場の噴水の近くで、ナンパのチャンスを待っていると思われる先生に一度出会ったことがありました。彼は女性たちが通り過ぎる中で視線を絡めつつ、やる気のない怠惰な表情を浮かべながら、噴水の柵に寄りかかっていました。「でも、この観光客のだらしない格好、何とかならないものかね」と私に話しかけてきたのです。

「フィレンツェは日常生活で社会的秩序を守りながら暮らしている場所なのに、そのリスペクトが感じられないんだよね。ここを南国のビーチと取り違えているんだ」と彼はしばらく不満を言い続けました。

私は当時、日本人の通訳やガイドのアルバイトをしていましたが、その頃は確かに日本人観光客は真夏でもきちんとした服装をしている人が多かったです。それに比べて欧米人、特にアメリカ人観光客の服装はとてもラフでした。