沖縄県・尖閣諸島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国が勝手に設置した「海上ブイ」問題が波紋を広げています。設置から約3カ月が経過しましたが、日本政府は〝抗議すれども撤去せず〟という対応に終始しています。周辺海域は民間船舶の往来も多く、事故など不測の事態が生じかねません。また、尖閣周辺では中国当局の船も連日確認されており、中国漁船の侵入などがエスカレートする恐れもあると、地元の危機感は強いです。岸田文雄政権はこのまま見過ごすのでしょうか。
ブイの危険性と船舶の安全性
ブイは中国の海洋調査船「向陽紅22」が7月1日から2日にかけて設置したものとみられ、尖閣諸島の魚釣島の北西約80キロで確認されました。日本政府は中国側に抗議し、撤去を求めていますが、海上保安庁によると、今月5日時点でブイに変化はないとのことです。
ブイが設置された海域は黒潮の流域で、北上する船舶にとっては、海流に乗ることで燃料費をカットできるメリットもあると言われています。
ある大型外航貨物船の現役船長は「『わざわざもめている海域に行くな』という海運会社もありますが、香港や台湾の高雄、厦門(アモイ)などに寄港する船舶がこの黒潮ルートを使うことはあります。一般論としてブイが船体に接触して損傷する恐れがありますが、最も怖いのは、ブイを係留するロープやチェーンなどが船のプロペラに巻き付くことで、大型船でも停止する場合があります」と話しています。
過去の事例と危機感
尖閣周辺海域では2018年にもブイが確認されています。当時、現場はどう対応したのでしょうか。
元第3管区海上保安本部長の遠山純司氏は、尖閣周辺海域を管轄する第11管区海上保安本部(那覇)で領海警備担当次長を務めた経験を持っています。
遠山氏は「今回のブイについて詳細は分かりませんが、18年当時のブイは本体が金属製で、海底にあるシンカー(重り)までチェーンで係留されていました。サビによる劣化や波の力でチェーンが切れ漂流しており、付近を航行する船舶の安全確保や尖閣への漂着を防ぐために海保が曳航(えいこう)しつつ、調査した経緯があります。ブイは波の高さや風向、風速など気象観測用とみられ、海警局船の航行に参考になるデータを送信していた可能性も考えられます」と語っています。
ブイの勝手な設置に関して、遠山氏は「尖閣周辺海域は民間船舶の往来も多いです。レーダーには映るものの、夜間など視界の悪い時に付近を航行する船舶と衝突する危険性もあり、安全な航行に支障が出ます。接触した場合、船体がへこんだり、最悪の場合、亀裂が入るリスクもあると指摘しています。
地元の石垣市議会では18年、「尖閣諸島周辺海域における中国によるブイ設置に対する抗議と即時撤去を求める要請決議」を可決しました。同市の仲間均市議は「ブイを打ったということは、いずれ中国の漁船が侵入してくることを示すのかもしれません。現状では、日本の領海にも中国公船が侵入して、日本の漁船が追尾される事態も発生していますが、政府は強い対応を打てません。危機はすでに起きている」と警戒を強めています。
国際法と主権行使
日本のEEZ内に中国がブイを設置したことは国連海洋法条約に違反しており、撤去するかしないかは「政府判断」との見方もあります。
山田宏参院議員は「万が一、事故が起きた場合、日本の海域なので、放置した日本の責任まで問われかねません。安全保障環境も変化する中で前例にとらわれてはいけません。リスクを未然に防ぐためにも国際法にのっとり、主権の行使として撤去しなければ、より問題を複雑にする」と強調しています。
尖閣周辺では、今月5日時点で、62日連続で中国当局の船が確認されています。南シナ海でも行われているように、他国の領土や領域を少しずつ侵食し、自国のものであるかのように既成事実化するのは中国の常套手段です。日本も「たかがブイ」と放置していては、中国の思うつぼです。
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