近年、中国ではフードデリバリーサービスが爆発的に普及し、生活に欠かせない存在となっています。スマートフォンアプリで手軽に注文できる便利さの一方で、その裏では配達員の過酷な労働環境が問題視されています。
コロナ禍で急成長を遂げたフードデリバリー市場
中国のフードデリバリー市場は、2020年のコロナ禍をきっかけに急激に拡大しました。外出制限が強化される中、自宅で食事をデリバリーする人が急増したためです。市場規模は2023年には2140億ドルに達し、2020年の2.3倍に成長しました。世界最大のテイクアウトデリバリー市場として、その存在感は圧倒的です。
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配達員の過酷な労働環境と悲痛な叫び
しかし、この市場の成長を支えているのは、厳しい労働条件下で働く配達員たちです。中国全土で、配達員が関与する激しい対立やトラブルが後を絶ちません。
信号無視で停車させられた配達員が、警官にひざまずいて謝罪した後、バイクに飛び乗って全速力で走り去る姿や、顧客からの評価に苦悩し、携帯電話を歩道に叩きつける配達員の映像がSNSで拡散され、社会問題となっています。
香港理工大学のジェニー・チャン准教授(社会学)は、「配達員は長時間労働を強いられており、精神的に追い詰められている」と指摘します。
低賃金と厳しいノルマに苦しむ配達員たち
配達員の多くは歩合制で働いており、配達件数が多いほど収入が増える仕組みです。そのため、少しでも多くの収入を得ようと、長時間労働やスピード違反などの危険な行為に手を染めてしまうケースも少なくありません。
また、顧客からの評価が低い場合は、報酬が減額されたり、仕事が回ってこなくなったりするなど、厳しいペナルティが課せられます。
フードデリバリープラットフォーム企業の責任
中国のフードデリバリー市場は、「美団(メイトゥアン)」と「Ele.me(饿了么)」の2大プラットフォームが独占状態にあります。
これらの企業は、配達員の労働環境改善よりも、利益の最大化を優先しているとの批判も少なくありません。
課題解決に向けた取り組み
配達員の労働環境改善のために、政府や企業による取り組みも始まっています。
政府は、配達員の労働時間や安全対策に関する規制を強化する動きを見せています。
また、企業側も、配達員の待遇改善や安全運転の研修などを実施しています。
持続可能な社会の実現に向けて
フードデリバリーサービスは、私たちの生活を豊かにする一方で、その裏側にある社会問題に目を向けることも重要です。
配達員が安心して働ける環境を整備し、利用者、企業、そして配達員の三者がwin-winの関係を築き上げていくことが、持続可能な社会の実現につながるのではないでしょうか。