「こっそり」中国訪問した英外相…背に腹は代えられぬ? 人権より経済最優先のイギリス「忍び足」外交


<英外相の訪中は6年間で2人目。スターマー首相は中国について「協力できるところは協力し、競争すべきところは競争し、挑戦すべきところは挑戦する」としているが>【木村正人(国際ジャーナリスト)】

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英外相の訪中はこの6年間で昨年のジェームズ・クレバリー外相(保守党)に続き2人目。デービッド・キャメロン首相(同)は2015年、英中黄金時代をぶち上げたが、国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利してキャメロン氏が退陣したのを機に英国は反中に大きく傾いた。

キア・スターマー首相(労働党)は総選挙のマニフェスト(政権公約)で「協力できるところは協力し、競争すべきところは競争し、挑戦すべきところは挑戦する。二国間関係の『監査』を通じ、中国がもたらす課題と機会を理解して、対応する英国の能力を向上させる」と明記した。

■英外相「中国への関与は現実的だ」

「民主的価値を守る。英国に移住した香港コミュニティーのメンバーを支援していく」方針を打ち出したスターマー首相は香港紙「リンゴ日報」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏の釈放が英国政府の「優先事項」と強調した。しかし英国政府の本音は明らかに経済優先だ。

ラミー外相は「英国と中国はグローバル・プレーヤーだ。中国への関与は現実的であり、英国と世界の利益を支えるために必要だ。ロシアのウクライナ侵攻阻止から世界的なグリーン転換支援に至るまで対立分野だけでなく協力分野も含めて率直に話をしなければならない」と表明した。

ラミー外相は野党時代の昨年、政権に返り咲いたら中国のウイグル族弾圧をジェノサイド(民族浄化)と宣言する法的手段を追求するため「パートナーと共に多国間で行動する」と述べた。しかし訪中に先立ち早々とこの方針を撤回し、反中超党派議員団から批判を浴びた。

■英外相にメディアはほとんど接触できない

英BBC放送はラミー外相の訪中について「訪中は静かに行われている。ラミー外相にメディアはほとんど接触できない。新たな貿易協定や政策協力についての発表もない。首相官邸は今月末の予算発表を前に政治的な対立を避けたいと考えている」と伝えている。

一方、スターマー首相は18日、ベルリンでジョー・バイデン米大統領、オラフ・ショルツ独首相、エマニュエル・マクロン仏大統領と会談し、ロシアの凍結資産活用などウクライナ支援策や中東情勢を話し合った。ラミー外相の訪中とバランスを取ったのが透けて見える。

18日に行われた外国メディア向け首相報道官ブリーフィングでもラミー外相の訪中に質問が集中した。「中国に対する監査について詳細を教えてほしい」という問いに首相報道官は「外務省が主導して政府内のすべての部署が参加している。現在も進行中だ」との答えを繰り返した。

■一貫した対中経済安全保障政策の構築を

中国共産党機関紙、人民日報系の国際版、環球時報(電子版)は18日付社説で「英国の対中関係を調整するためのスターマー政権による最新の行動であり、中英関係が軌道に乗るための改善と好条件の創出が期待される」と評価した。

「英国の経済界はEU離脱後、新たな市場を開拓する必要があることから中国との貿易・経済関係の改善を広く望んでいる。しかし英国が米国流の戦略的競争マインドセットや協力・競争・挑戦の三項対立から脱却できなければ、大幅な関係改善は難しい」と揺さぶった。

英シンクタンク、中国戦略リスク研究所(CSRI)は「エネルギーや輸送網への中国技術の統合が進み、依存関係、サプライチェーンの復元力、サイバーセキュリティーを巡る新たなリスクも生じている」と強調、監査を通じ一貫した対中経済安全保障政策を構築することを提言している。



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