2024年のノーベル経済学賞が発表されました。ざっくり言えば、「法の支配が不十分な国や国民を搾取する制度を持つ国は長期的に経済成長できない」という内容の理論が受賞しました。この理論を日本に当てはめると、日本の「失われた30年」を引き起こした“意外な真犯人”が見えてきます。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
● 2024年のノーベル経済学賞、発表! 理論を日本に当てはめると……
2024年のノーベル経済学賞は、社会制度と国家の繁栄の関係を研究した業績で、マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、それにシカゴ大学のジェームズ・ロビンソン教授の3人に贈られることが発表されました。
アセモグル教授とロビンソン教授は共著書『国家はなぜ衰退するのか』でも提唱した、国家が繁栄するか衰退するかには政治的な制度が関係しているという研究結果が日本でも有名です。
研究成果でもある、「法の支配が不十分な国や、一部の権益者に富が集中し国民を搾取する制度を持つ国は長期的に経済成長できない」という分析は、現在、衆院選の争点にもなっている裏金問題ともリンクして見えます。
「多数の裏金議員がいるのに起訴されない」という日本の実情は、法の支配が不十分だからという意見があります。いや、そうではなく政治家は国民のような納税をしなくてもいい法律になっているのだから不起訴の判断は正しいという意見もあります。
後者の立場でも政治家という職業が税制上、一般の職業よりも富が優遇される制度ができているということになります。ですから、どちらの解釈でもノーベル経済学賞的な解釈では「日本は経済成長できない国だ」という結論になりそうです。
さて、ここまでの議論で少し気分が悪くなった読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、今週の記事ではもう一段、深く掘り下げてノーベル経済学賞の理論から日本経済を眺め直してみたいと思います。
● 理論の基礎は「植民地支配の研究」にある 戦後の日本は…?
実は「国の発展が制度と強く関係する」という彼ら3人の研究は、欧米の植民地支配の研究が基礎になっています。経済の発展は本来は人口や気候、文化などさまざまな要因が関係するはずです。
しかし彼らの研究では、宗主国が植民地に強いた社会制度が決定的に重要だということを明らかにしました。アフリカを例にとれば収奪的な社会制度が採られた国々が大変貧しくなっている傾向があります。
一方で長い歴史の目で見ればアメリカもオーストラリアも資源が豊富な国であり、イギリスを宗主国とする旧植民地でしたが、彼らの研究成果に沿って言えば人口密度が小さかったことが幸いでした。そういった国の支配は移民を主体に行われるため、社会制度には宗主国に近い自由が組み込まれました。
もちろんアメリカにしても、植民地でなくなるためにイギリスに独立戦争を仕掛けるなど搾取された歴史はあります。それでも、総じて言えば社会制度に自由が与えられたことで長期持続的には繁栄することができたというのです。
さて、ここで物議を醸す考察をしてみます。日本はどうなのでしょうか。