佐藤優氏が石破首相を分析「根底に強いキリスト教信仰があるからこそ“リベラルな保守”たりえている」


【写真】石破氏、支持率が振るわない…

 そして石破氏の理念を理解するうえで見落とせないのが、プロテスタントのキリスト教徒であることだ。総裁選前に発売されて広く書店に流通した『保守政治家』よりも、版元からの直販のみの『石破茂語録 主よ、用いてください』(あだむ書房)という著書のほうが石破氏の内在的論理をよく理解できる。

 同書から読み取れるのは、石破氏が日本政治史において稀有な、強いキリスト教信仰を持つ首相であるということだ。人間は過ちを犯す存在だと認めて、少しずつ良くしていこうというキリスト教は保守思想と親和性が高い。夫婦別姓を容認するといった考え方の根底にも、このキリスト教があると考えていい。

 神社は参拝するけれども、神社の神々に祈っているわけではない。そうして表向きは現実に合わせた行動を取り、内面には信仰がある。公明党・創価学会などと同じ構造だろう。戦後日本の価値観に基づいた保守と言える。むしろ野田氏のほうが神がかり的な考え方で右翼ナショナリストに近い立ち位置と見ている。

 熱心なキリスト教徒である石破氏は、首相になったことで自分には歴史的使命があると強い信念を持ったように感じる。

 石破氏は日米安保条約の見直しを掲げているが、アメリカと同盟を組んでいる国はどこも主権の一部を譲り渡している。各国が所要の条件下でそれが自国の安全保障にとって最良の選択だと思っているからだ。対等な関係にするとか、主権を完全に取り戻すことは、それこそ日本がもう一度アメリカと戦争して勝たないと無理だろう。石破氏は国家の秘密情報にまだ触れていなかったから仕方ないのかもしれないが、現実的ではない。

 もちろん、時代の流れによって譲り渡す主権の度合いは変わってくる。日本の国力は1960年に地位協定を締結した時に比べて強くなっているから、アメリカとの関係で日本の主権を伸ばすことができる可能性はある。しかし、アジア版NATOというのは米国が許容できる閾値を超えている。君子は豹変すというから、現実を知ってひっくり返すのではないか。

【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ、東京都出身。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。近著に『賢人たちのインテリジェンス』(ポプラ新書)などがある。

※週刊ポスト2024年11月1日号



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