深セン日本人小学生殺害事件:高まる中国のナショナリズムとサイバー空間の闇

2023年9月、中国・深セン市で発生した日本人小学生殺害事件は、日中両国に衝撃を与え、外交問題へと発展しました。事件の背景には、近年中国で高まりを見せるナショナリズムと、インターネット上のヘイトスピーチの存在が指摘されています。

オンラインで拡散する外国人排斥

事件後、中国のソーシャルメディアでは、犯行を非難する声が多く上がる一方で、被害者を悼むどころか、日本に対するヘイトスピーチを展開するユーザーも少なくありませんでした。

「日本人が歴史を謝罪しない限り、日本人がどうなろうと知ったことではない」

「日本人は第二次世界大戦中に多くの中国人を殺害し、今日まで謝罪していない。文明人とは到底言えない」

このようなコメントが拡散され、中には「日本人の子どもを殺すのは大したことではない」といった過激な発言も見られました。

中国のソーシャルメディアWeiboのロゴ中国のソーシャルメディアWeiboのロゴ

国家が煽る愛国心とナショナリズムの台頭

専門家は、中国政府が推進する「愛国教育」や、外国の影響力に対する警戒心が、国民のナショナリズムを煽っている可能性を指摘しています。

中国では、学校教育において愛国心を育むことが重視され、子どもたちは幼い頃から自国への愛情を教え込まれます。また、近年は反スパイ法の強化や、外国企業に対する規制強化など、中国政府は国内の結束を強める政策を次々と打ち出しています。

こうした状況下で、一部の国民の間では、自国が外国から不当に差別されているという意識が強まり、外国人に対する敵意や不信感を抱くようになっている可能性も考えられます。

経済減速と社会不安が拍車をかけるナショナリズム

中国経済の減速や、若年層の失業率の上昇など、社会不安の高まりも、ナショナリズムの台頭を助長している要因の一つとして挙げられます。

経済的な不安や将来への閉塞感が高まる中、国民は不満のはけ口を求めており、ナショナリズムはそうした人々の不満や不安を吸収するのに都合の良い道具となっているのです。

インターネット空間におけるナショナリズムの危険性

中国政府は、インターネット上の言論統制を強化しており、反体制的な言動に対しては厳しい取り締まりを行っています。一方で、ナショナリズムをあおるような言動に対しては、比較的寛容な姿勢を見せていると指摘されています。

これは、中国政府がインターネット空間におけるナショナリズムを、反体制的な言動を抑制するための「安全弁」として利用しようとしているためだと考えられます。

しかし、ナショナリズムは時に制御不能な存在となり、政府の意図を超えて暴走する危険性をはらんでいます。深センの日本人小学生殺害事件は、高まるナショナリズムがもたらす危険性を改めて浮き彫りにしました。

私たちにできること

外国人排斥やヘイトスピーチは、決して許されるべきではありません。私たちは、インターネット空間における言動が、現実世界に大きな影響を与える可能性があることを自覚し、責任ある行動をとる必要があります。

また、中国社会が抱える問題や、ナショナリズムの高まりの背景について、深く理解することが重要です。