「小学校卒の学歴」だからではない…田中角栄が毛沢東から”無教養”を皮肉られた本当の原因


【写真】毛沢東氏と握手をする田中角栄氏。この後、田中氏は盛大にやらかし、毛沢東氏に馬鹿にされる…。

■「漢文不要論」こそ不要である

 ――中国社会では、日本人が思っている以上に歴史や古典といった教養が重んじられるようですね。

 一定以上の知識レベルの人は、会話の途中にしばしば「中国にはこういう言い回しがある」と言って古事成語や古典、歴史の知識を持ち出してきたりします。日本も昭和の頃まではそうでしたが、政治家でも経営者でも、リーダーたる者は十分な教養を備えるべきという教養主義が中国ではなお健在です。

 いっぽうで日本ですが、本来日本には近代以前からの漢学の蓄積があり、中国の歴史や文化に関する知識は、もともとは世界のなかでトップクラスです。韓国やベトナムも漢字文化圏ですが、現在は漢字を使っていない。欧米については、『フォーリン・アフェアーズ』などを読んでいても、ときには研究者レベルでさえ中国の歴史や文化への理解がかなり乏しい人がすくなくないと感じます。

 本来、中国史や漢文の知識は、世界のなかで日本が圧倒的なアドバンテージを持つ強みでしょう。SNS上ではしばしば「漢文は役に立たない」と「漢文不要論」が取り沙汰されますが、わざわざ全世界で唯一持っている武器を自分から手放すのはナンセンスだと思います。それらは、現代中国を分析して対峙(たいじ)していくうえでも有用な知識だからです。

 ――最近では、沖縄(琉球)独立を煽るフェイクニュースがネット上に大量に投下されましたが、中国の関与が指摘されています。こうした動きも、歴史と関わりがあるんでしょうか?

 中国の沖縄工作の活発化は、直接的には昨年6月の習近平の発言がゴーサインになっているのですが、深層心理としては歴史への認識もあると思います。

 ご存知の通り、近代以前の沖縄は琉球王国として中華王朝から冊封(形式上の君臣関係)を受けて朝貢(皇帝に貢物を献上し、返礼品を受け取る外交・貿易関係)する関係にありました。江戸時代以降は清朝と江戸幕府への両属関係です。近年の中国の沖縄介入には、習近平体制に入ってからの中国外交に漂う「王朝時代の朝貢関係の結び直し」という思想も無縁ではないでしょう。

 中国の外交姿勢からこうした思想を感じ取れるのは、有名な「一帯一路」政策です。これは内陸ユーラシアの「陸のシルクロード」とインド洋沿海諸国を中心とした「海のシルクロード」の各国との関係を強化する習近平政権の外交戦略です。近年は中国の景気低迷もあり、すこし低調ですが、とはいえ言葉としては提唱され続けています。

■「一帯一路」政策の背景にある“古代王朝”

 23年5月に広島でG7サミットが行われた時、中国では“裏番組”のような形で、習近平をホスト役とする「中国・中央アジアサミット(中国中亜峰会)」が開かれていました。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア5カ国が陝西省の西安、つまり唐の時代の長安に招待され、唐代の宮殿を模した建物で唐代風の儀礼で歓待されたのです。

 このときに呼ばれた各国の大部分は、唐の最盛期には西域(さいいき)と呼ばれ、現在の国土のすくなくとも一部が唐の勢力範囲内に入っていた歴史があります。当時の唐の皇帝は、中央ユーラシアの国々から「天可汗(てんかかん)」の称号で呼ばれ、西域諸国の朝貢を受ける立場でした。現在の「陸のシルクロード」からは、当時の紐帯関係の復活を望むような意思を感じ取ることができます。

 一帯一路政策の「海のシルクロード」も同様で、これらの対象諸国は、明代に南海遠征をおこなって各国の朝貢を勧誘した鄭和の航路とかなり一致する。習近平はインド洋各国との外交の現場で鄭和の事績にしばしば言及しており、こちらも往年の朝貢国の結び直しの意思を感じます。



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