近年、富裕層を中心に中国から日本への移住が増加し、メディアでも大きく取り上げられています。しかし、その一方で、長年日本に暮らした中国人が故郷へ戻っていくという、逆の流れも生まれていることをご存知でしょうか。この記事では、日本での生活に長く慣れ親しんだ後、中国へ本格帰国する人々の背景にある、意外な思いを探ります。
日本と中国、故郷への思いのはざまで揺れる心
賑やかな中華街の様子
38年前に来日し、大手企業で定年退職を迎えた王さん(仮名)は、近年帰国の頻度を増やす中で、故郷である中国の魅力を再認識するようになったと言います。長年の日本での生活で、両国の文化や生活様式の大きな違いを改めて実感しているそうです。
食文化の違い:進化する中国料理と懐かしの味
新鮮な魚介類が並ぶ市場
王さんは、日本でも中国人の仲間と「ガチ中華」と呼ばれる本格的な中華料理店を訪れることがあるそうですが、「味は全く違う」と断言します。日本の「ガチ中華」も進化しているものの、故郷・上海の洗練された中華料理のレベルには及ばないとのこと。近年、中国の食文化は目覚ましい発展を遂げており、地方都市でも新鮮な食材を使った多様な料理を楽しむことができると、王さんは嬉しそうに語ります。来日当初は日本のスーパーの清潔さや整然とした陳列に感銘を受けたものの、今では中国の豊富な食材、特に新鮮な野菜、果物、そして多種多様な海鮮の魅力に改めて気づかされたそうです。 食文化研究家の山田氏(仮名)も「中国の食文化は近年、目覚ましい発展を遂げている。地方の食材を生かした郷土料理も洗練され、世界的に注目を集めている」と指摘しています。
故郷を捨てた富裕層の葛藤
王さんは、自身の住むマンションの住民グループチャットを通して、最近日本に移住してきた富裕層の中国人の様子も観察しています。彼らは経済的に恵まれた環境で日本での生活を始めているものの、故郷を離れる決断には複雑な思いがあるのではないかと推察しています。日本には中国人が多く、中国語の情報交換も容易ですが、それでも故郷とは異なる環境での生活には、少なからずストレスや我慢もあるだろうと王さんは想像します。路上の屋台で気軽に食べられる揚げパン一つとっても、日本では簡単に手に入らない。故郷を離れる必要のない日本人には理解し難い、故郷への郷愁がそこにはあるのではないでしょうか。
日本と中国、どちらでもない存在
長年日本に暮らす中国人は、「日本人」でも「中国人」でもない、独自のアイデンティティを形成していくのかもしれません。中国と日本の間で揺れ動く彼らの心境は、グローバル化が進む現代社会における、一つの縮図と言えるでしょう。
この記事で紹介した王さんのように、日本から中国へ本格帰国する人々は、故郷への郷愁、食文化への愛着、そして日本と中国、どちらにも属さない独自のアイデンティティを形成しているのかもしれません。彼らの選択は、私たちに故郷の大切さ、そして異文化理解の重要性を改めて問いかけているのではないでしょうか。