芸能界の重鎮、杉良太郎氏。長年の福祉活動に加え、芸能界から政財官界にまで広がる幅広い人脈で知られています。特に政界の大物政治家たちとの交流は、氏のその後の人生に大きな影響を与えたと言います。今回は、田中角栄元首相や福田赳夫元首相との知られざるエピソードを紐解き、杉氏がそこから何を学んだのかを探ります。
若き杉良太郎と「金さん」こと田中角栄
杉氏は20代から多くの政治家と交流を持ち、彼らから人間の裏表を学んだと語っています。中でも特に印象深い人物が、田中角栄元首相です。当時、人気時代劇「遠山の金さん」に主演していた杉氏を、角栄氏は「金さん」と呼び、毎週欠かさずドラマを見ていたそうです。「政治家のような頭を使う仕事には、勧善懲悪のドラマが一番の気分転換になる」と語っていたといいます。
田中角栄元首相
顔を近づけ、熱心に語りかける角栄氏の姿が目に浮かびます。「君は国民に夢と希望を与える立派な仕事をしている。今の政治家に夢や希望を与えている者が一匹でもいるか?自分の仕事に自信を持って、これからも頑張ってくれ!君は日本の宝だ!」と激励された杉氏は、若くして大きな感銘を受けたことでしょう。
ある時、角栄氏は杉氏を事務所に呼び、政治家たちに札束を渡す現場を見せました。当時、派閥の領袖が議員に「餅代」を渡すのは当たり前のことでしたが、角栄氏はその後、真剣な顔で「どうだ?こんなふうにやっても、みんな最後は裏切るんだよな。人間なんてそんなもんだ」と語ったといいます。この出来事は、若き杉氏にとって人間の複雑さを学ぶ貴重な経験となったに違いありません。
電波とマスコミ:角栄氏の予言
角栄氏は、郵政大臣時代にテレビ局の予備免許をめぐる調整を行い、現在のマスコミの原型を作った人物でもあります。しかし、皮肉なことに、自身で作り上げたテレビのワイドショーからバッシングを受けることになりました。
「ワシが電波を作ったんだ。その電波に今、やられてる。自分のつくったものにグサリとやられるんだ。金さん、それを忘れるな」
角栄氏のこの言葉は、まるで現代社会のメディア状況を予見していたかのようです。恩を受けた者でも裏切る者もいる、何かあると掌を返したように攻撃してくる人間もいる。人間の汚いところをしっかりと見ておけよ、という角栄氏のメッセージは、杉氏の心に深く刻まれたことでしょう。
福田赳夫との出会い:飾らない人柄と温かい支援
角栄氏との交流の一方で、杉氏は角栄氏と犬猿の仲とされていた福田赳夫元首相とも親交を深めていました。画家の安井曾太郎氏の妻・はま氏を介して福田氏と出会った杉氏は、デビュー3年目にして福田氏の後援会長を引き受けてもらうことになります。
「はーはー、ほーほー。君はいい面構えをしているな。吾輩が後援会長を引き受けよう」
福田氏の独特の口癖と共に、杉氏への温かい支援が始まりました。明治座での公演中に花道脇から声をかけるなど、飾らない人柄で杉氏を応援してくれたといいます。
安倍晋太郎氏との出会い:受け継がれる絆
福田氏は、杉氏を派閥の幹部の集まりに連れて行き、「杉良太郎君だ。ひとつ宜しく頼む」と紹介しました。その席で、安倍晋太郎氏は杉氏に「おやじ(福田)にもしものことがあったら、杉さんのことは自分が全部引き受ける」と約束してくれたといいます。しかし、晋太郎氏は福田氏より先に亡くなってしまいました。このエピソードは、世代を超えた政治家たちの絆を感じさせます。
杉良太郎氏は、政界の大物たちとの交流を通して、人間の本質や社会の仕組みを学びました。これらの経験は、氏のその後の芸能活動や福祉活動の礎となっていると言えるでしょう。