「戦後民主主義の理念」と参政党:保阪正康氏が指摘する歴史的背景

参議院選挙で14議席を獲得し、その存在感を大きく示した参政党。しかし、昭和史研究家である保阪正康氏は、この参政党とその代表である神谷宗幣氏に対し、「歴史」という視点から深い違和感を抱いていると述べています。その背景には、戦後日本の歩みとその理念への認識が大きく関わっていると保阪氏は指摘します。

参政党の「目新しさ」と戦後民主主義への認識

保阪正康氏は、参政党が「国家主義的右派政党」として打ち出す「目新しさ」の根源について考察しています。この目新しさは、戦後民主主義の理念を深く理解せず、学ぼうとしない姿勢、あるいはその理念に飽いている状況から生じているのではないかと保阪氏は感じています。彼らは、歴史の連続性や継承が十分に意識されていない現代において、新たな勢力として台頭してきたという見方を示しています。

参政党代表・神谷宗幣氏の表情。彼の発言が論争を呼んでいる参政党代表・神谷宗幣氏の表情。彼の発言が論争を呼んでいる

参議院選挙の前後、メディアによって報じられた神谷氏や参政党の議員、候補者たちの発言や政策には、保阪氏を驚かせたものが数多くありました。例えば、「沖縄戦で日本軍は県民を守ってくれた」「沖縄戦での日本軍の県民殺害は例外的」といった歴史認識に関わる発言や、「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」「外国人からは相続税が取れない」「生活保護受給世帯の3分の1は外国人」「核武装は最も安上がり」といった具体的な政策提言。さらには「極端な思想の公務員は洗い出して辞めてもらう」「(抗議する市民に向けて)ギャーギャー言っている人は非国民」「反日の日本人と戦っている」「国のために尊い命を捧げられた御英霊の皆さまに感謝を捧げる」「80年間の戦後体制をひっくり返す」「核以外の抑止力には、将来的にはバリアが作れたり、電磁波によるパルス攻撃などもあるかも知れない」といった過激な表現も見受けられました。

議論を呼ぶ発言と「言葉の責任」

これらの発言に対し、メディアが誤りや問題点を指摘すると、参政党側は「切り取り」であるため真意が伝わっていない、あるいは過去の発言に過ぎないと反論し、責任を回避する態度が見られたと保阪氏は指摘しています。しかし、保阪氏は、彼らの歴史観の全体像が見えない以上、個々の発言を問題視せざるを得ないと考えています。

その場限りのような放言が、果たして本心からの表現なのか、それとも選挙期間中の有権者を煽るためのものなのか、判然としない点も問題視されています。実際に、神谷氏自身が「日本人ファースト」というスローガンを選挙のキャッチコピーであり、選挙期間中だけのものであると発言した例も挙げられています。保阪氏は、現代の政治における言葉が、一瞬の強烈な効果を期待して放たれ、人々の「情動」に訴えかけるだけの道具となってしまったのではないかという懸念を示しています。

結論

保阪正康氏の指摘は、参政党の台頭が、単なる政治的な動きに留まらず、戦後日本の歴史認識や民主主義の理念、そして「言葉の責任」という根深い問題と結びついていることを示唆しています。特に、歴史の継承が不十分な中で、人々が感情的な訴えに引きつけられる現状は、今後の日本の政治のあり方を考える上で重要な問いを投げかけています。


参照元:
文春オンライン