北海道・知床半島に位置する羅臼岳(標高1661メートル)で、東京から訪れた26歳の男性登山客がヒグマに襲われ、命を落とす痛ましい事故が発生しました。男性は14日午前に登山道からヤブに引きずり込まれ行方不明となっていましたが、15日午後に発見されました。世界遺産登録から20年を迎える知床半島で、ヒグマによる登山客の死亡事故は今回が初めてのことです。
捜索とヒグマの駆除
道警によると、15日午後1時過ぎ、事故現場付近にいたヒグマの親子3頭が駆除されました。これは、捜索隊の安全確保のために、ハンターが発砲し、やむを得ず行われた措置です。現場近くのやぶからは、男性のものとみられる血のついたシャツや靴などが発見され、周囲の地面や木にも血痕のようなものが残っていたと報告されています。今回の事故は、知床における人とヒグマとの距離の変化と、それによるリスクの増大を浮き彫りにしています。
相次ぐヒグマ目撃事例と緊張の遭遇
近年、羅臼岳の登山道ではヒグマの目撃情報が相次いでいました。事故発生のわずか数日前、8月10日にも四国からの登山客(68)が下山中に、標高約1100メートルの羽衣峠付近でヒグマの親子連れに遭遇しています。子グマは2頭おり、その距離はわずか5メートルほど。男性が驚いて座り込んだところ、クマは右手の草やぶに隠れました。
男性は周りの登山者たちと共にゆっくりと引き返しましたが、ヒグマの親子は再び登山道に戻り、約30メートルの距離を保ちながら彼らの後をついてくるように登ってきました。この緊迫した状況は10分ほど続き、大沢の入り口に差し掛かると、ヒグマは山の奥へと姿を消したといいます。国内外の多くの山を登ってきたこの男性も、「登山道でクマに会ったのは初めて。襲ってくる様子はなかったが、非常に緊張した」と当時の心境を語っています。
知床羅臼岳の登山道脇で目撃されたヒグマの親子
今後の警戒と共存の課題
今回の痛ましい事故は、知床のような自然豊かな世界遺産地域において、人間活動と野生動物との間に存在する潜在的な危険性を改めて知らしめました。ヒグマの活動域が登山道に接近している現状を受け、登山者にはこれまで以上に厳重な警戒と、クマ対策に関する知識の習得が求められます。知床の豊かな自然を守りつつ、人々の安全を確保するための新たな共存のあり方が、喫緊の課題として浮上しています。
参考文献:
- 朝日新聞社 (2025年8月15日). 北海道・知床半島羅臼岳でヒグマに襲われた登山客が死亡. Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/90851ddcd800b3625ab8f75e6f4cbf1d177e4d6f