国民民主党が主張する「年収の壁」問題。その解決策として注目される基礎控除引き上げは、財政負担増を懸念する声も上がっています。しかし、近年のインフレ傾向を踏まえると、財政健全化と基礎控除引き上げの両立は可能なのでしょうか?この記事では、専門家の意見も交えながら、その可能性を探ります。
インフレが財政に与える影響
近年の日本経済は、円安や物価高の影響を受け、法人税収、消費税収、所得税収が増加傾向にあります。これは財政指標の改善に大きく貢献しています。
政府純債務/GDP
財政健全性の国際標準指標である「政府債務残高/GDP」比に着目すると、近年の改善の主要因はインフレであることが分かります。内閣府の試算によると、GDPデフレーターの1%上昇は、政府債務残高/GDP比を1.5~1.7%ポイント押し下げ、金額換算で11~12兆円の財政改善効果をもたらします。
政府債務残高/GDPの要因分解
財政アナリストの山田一郎氏は、「インフレは政府債務の実質価値を減少させるため、財政健全化に寄与する側面がある」と指摘します。
基礎控除引き上げと財源確保の可能性
国民民主党が主張する基礎控除75万円への引き上げに必要な財源は、約7.6兆円と試算されています。前述のインフレによる財政改善効果を考慮すると、GDPデフレーターベースで0.6~0.7%のインフレが持続すれば、政府債務残高/GDP比を上昇させずにこの財源を捻出できる可能性があります。
政府債務残高/GDPの寄与度分解
さらに、減税による経済活性化で税収増が見込めるため、財政への影響は軽減されると考えられます。基礎控除引き上げによる所得減税は、パートタイム労働者の労働供給や所得増加につながり、経済全体の活性化も期待できます。
個人所得税を名目1%相当額だけ減税の効果
経済学者の佐藤花子氏は、「基礎控除引き上げは家計の可処分所得を増やし、消費を刺激することで経済成長を促進する効果が期待できる」と述べています。
財政政策のアップデート
日本は長年、デフレ脱却を目指しプライマリーバランス黒字化を目標としてきました。しかし、世界の財政政策論は常にアップデートされています。日本も財政健全化へのアプローチを柔軟に見直し、財政目標のアップデートを検討する時期に来ているのかもしれません。
基礎控除引き上げの財源確保に懸念が残る場合は、段階的な引き上げや、効果の薄い給付金やエネルギー関連支援策の見直しなども検討すべきでしょう。これらの財源を基礎控除引き上げに充てることで、より公平で効果的な財政政策の実現が期待できます。
まとめ
インフレを考慮すると、財政健全化と基礎控除引き上げの両立は不可能ではありません。財政政策の柔軟な見直しと、効果的な財源活用によって、経済活性化と家計支援の両立を目指すべきです。