韓国で26年間暮らしてきたモンゴル出身のカン・テワンさん(32歳、モンゴル名:タイバン)が、労災事故で命を落としました。息子の無念を晴らしたい一心で、母イ・ウンヘさん(62歳、モンゴル名:エンフザルガル)は記者会見を開き、真相究明を訴えました。この記事では、事故の背景や遺族の悲痛な叫び、そして韓国社会における外国人労働者の現状についてお伝えします。
26年間の韓国生活、そして突然の悲劇
カンさんは幼少期に移住し、韓国で26年間を過ごしました。永住権取得を目前に控えた矢先、全羅北道金堤市の特装車メーカー「HR E&I」(旧ホリョン)で労災事故に遭い、帰らぬ人となりました。わずか8か月前に地域特化型ビザを取得し、やっと韓国社会に根を下ろそうとしていた矢先の出来事でした。
カンさんの遺影を持つ母親
事故は11月8日、10トンの無人建設装備と高所作業車の間に挟まれるという痛ましいものでした。当時、カンさんは開発中の装備のテストを行っていたといいます。母親は息子の死を未だに受け入れられず、深い悲しみに暮れています。
真相究明への道のり、残された疑問
11月14日、全州市の雇用労働部全州支庁前で記者会見が開かれました。喪服姿の母親は、涙ながらに「息子がなぜ死んだのか、真実を明らかにしてほしい」と訴えました。これまで名前と顔を隠して生きてきた母親が公の場に出たのは、息子の死の真相を究明するためでした。
事故原因究明の鍵を握るリモコンの行方についても、疑問が残ります。会社側は当初「事故で壊れた」と説明していましたが、後に「問題なく作動する」と発言を翻しました。また、警察は「事故装備をトラックで引き出した」と説明する一方で、会社側は「リモコンで後進させた」と主張しており、食い違いが生じています。監視カメラの映像も事故の瞬間で途切れており、救助の様子は確認できないといいます。
これらの矛盾点に、遺族や支援団体は不信感を募らせています。「会社は責任を故人に押し付けるのではなく、真摯に謝罪し、責任を果たすべきだ」と強く求めています。
外国人労働者の権利と安全、改めて問われる課題
カンさんの事故は、韓国社会における外国人労働者の厳しい現実を改めて浮き彫りにしました。韓国で人生の大半を過ごしてきたにもかかわらず、不安定な立場に置かれ、十分な保護を受けられないまま命を落としたカンさんの悲劇は、私たちに多くの課題を突きつけています。
今後の捜査や労働当局の調査において、外国人労働者であるという理由で差別されることなく、公正な手続きが行われることが重要です。また、外国人労働者の権利と安全を守るための制度の整備や、企業の責任についても、改めて議論していく必要があるでしょう。
韓国の労働問題に詳しい専門家、パク・ミンチョル氏(仮名)は、「外国人労働者は言葉の壁や文化の違いから、職場での困難に直面しやすく、安全面でも十分な配慮が行き届かないケースが見られる。今回の事故を教訓に、外国人労働者が安心して働ける環境づくりが急務だ」と指摘しています。
この事件の真相が一日も早く明らかになり、再発防止策が講じられることを願うばかりです。