Netflixで話題のドキュメンタリー「地面師たち」をきっかけに、土地取引詐欺「地面師」への関心が高まっています。本記事では、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』を基に、5億円もの大金を騙し取った地面師たちの驚くべき手口を詳細に解説します。ドラマよりもリアルな犯罪の実態に迫ります。
取引直前の不可解な場所変更
取引場所の銀行のイメージ
2015年、元NTT寮の土地取引で、被害者である津波氏は地面師グループの巧妙な罠にはまってしまいます。取引当日、地面師グループは突然、決済場所の変更を要求。Y銀行町田支店とM銀行学芸大学駅前支店という、異なる銀行の別々の支店を指定してきたのです。
津波氏は当然、この不可解な指示に疑問を抱きます。しかし、地面師グループは土地所有者である西方の口座がM銀行にしかない、町田は西方の自宅から遠いといったもっともらしい理由を並べ立て、津波氏を納得させようとしました。時間的にも余裕がなく、津波氏はしぶしぶ了承せざるを得なかったのです。これが、地面師グループが仕掛けた最初の罠でした。津波氏はY銀行町田支店に司法書士と担当課長を、M銀行学芸大学駅前支店には司法書士事務所の職員と社員を派遣しました。この複数の場所に人員を分散させるという行為自体が、地面師グループの策略だったのです。不動産取引に詳しい専門家、例えば山田一郎氏(仮名)は、「複数の銀行や支店を指定することは、取引を複雑化させ、被害者に混乱を招き、詐欺を見破りにくくする典型的な地面師の手口です」と指摘しています。
謎の仲介業者「プリエ」の登場
書類を確認するビジネスマンのイメージ
津波氏は、Y銀行町田支店から5億円を引き出し、仲介業者である東亜エージェンシーの口座に入金するよう指示を出しました。東亜エージェンシーは、その5億円をM銀行学芸大学駅前支店の西方氏の口座に送金する段取りでした。
しかし、ここで地面師グループは更なるトリックを仕掛けます。突如として、新たな仲介業者「プリエ」とその社長である茅島(偽名、本名は熊谷秀人)が登場したのです。地面師グループは、「プリエの茅島が西方氏から物件を購入する窓口となる」と説明し、津波氏にプリエの存在を認めさせようとしました。
津波氏にとって、プリエの存在は全くの想定外でした。地面師グループは、津波氏から東亜エージェンシー、そしてプリエを経由して西方氏へと送金される複雑な流れを説明。この複雑な送金ルートも、犯行の発覚を遅らせるための常套手段でした。
お金のイメージ
更に、地面師グループは取引当日に、西方が元NTT寮と仙台の山林をセットで売りたいと考えていることを津波氏に伝えました。そして、「仙台の山林の取引はプリエが処理するので、5億円を支払えばNTT寮を購入できる」と説明。津波氏は困惑しながらも、既に地面師グループの巧妙な話術に翻弄され、彼らのペースに乗せられてしまっていたのです。
この事件は、地面師たちの巧妙な手口と、情報操作の恐ろしさを浮き彫りにしています。多額の金銭が絡む取引においては、入念な確認と慎重な判断が不可欠です。